ワイバーンて、そんなレアですか?
ギルドの扉を押し開ける。
昼の喧騒がそのまま流れ込んできた。
冒険者たちの笑い声、木のジョッキがぶつかる音、依頼掲示板の前で揉める声。
いつもの光景だ。
……ただし。
俺たちが入った瞬間、ぴたりと空気が止まった。
そりゃそうだ。
銅像。
人体模型。
鏡。
そしてオーク。
どう考えても普通じゃない。
「また来たぞ、あの連中」
「今度は何連れてきたんだ」
「オーク飼ってるぞ」
ざわざわする。
ピグは気にせずソリの上でのんびりしている。
「ぶも」
平和だな。
俺はカウンターへ向かった。
「ギルア」
奥から顔を出す。
「ああ、お前か」
書類を抱えたまま歩いてくる。
「鑑定終わったぞ」
「早いな」
「ちょっと頑張っといたんだ。」
カウンターに袋が置かれる。
重い音。
「金貨百枚だ」
「……おお」
思ったより多い。
「ワイバーンの素材が高く売れる」
「そうなんだ」
「そうなんだ、じゃねぇ」
ギルアが腕を組む。
「普通の冒険者はワイバーンなんて近づかねぇ」
「まあ、そうか」
俺は袋を受け取る。
金貨がずっしり重い。
「助かった」
「まだあるだろ」
「ん?」
「顔に書いてある」
ギルアが指をさす。
「お前、“ついでに何か持ってきた顔”してる」
鋭いな。
「すみません、これも……」
俺は人体模型を見る。
「鏡少年」
「はい」
鏡がふっと光る。
「じゃあ、失礼して」
次の瞬間。
鏡の中から――
ドサッ。
巨大なワイバーンの死体が吐き出された。
ギルドが一瞬静まり返る。
ドサッ。
ドサッ。
さらに落ちる。
ワイバーン。
ワイバーン。
ワイバーン。
そして――
ゴロン。
オーク。
ゴロン。
またオーク。
床が一気に埋まった。
ギルアの口がゆっくり開く。
「……」
沈黙。
ギルド中の視線が集まる。
「先生」
鏡少年が楽しそうに言う。
「まだ出します?」
「いや、もういい」
「了解です」
鏡は静かになった。
ギルアがゆっくり振り向く。
俺じゃない。
鏡の方を見る。
「お前」
「はい?」
「お前、ほんとにすごいな……」
しみじみ言った。
鏡少年は肩をすくめる。
「解体なんて頼まなくても僕ができるんですけどね」
少し得意げだ。
俺は即答する。
「ダメ」
「えー」
「お前がすると素材に傷はつくわ」
「細かいこと言いますね」
「切っちゃいけないところまで切るわ」
「それは仕方ないじゃないですか」
「散々だからダメ」
鏡少年がむっとする。
「先生、ひどい」
ギルアが吹き出した。
「ははは!」
ギルドの空気が一気に緩む。
「なんだお前ら」
「漫才か」
冒険者たちが笑い始めた。
ピグも楽しそうだ。
「ぶ!」
ソリの上でぴょんと跳ねる。
ギルアが息を整える。
「……まあいい」
山になった魔物を見る。
「これは全部解体だな」
「お願いします」
「今日中は無理だ」
「急ぎません」
ギルアが頷く。
そして少しだけ真面目な顔になる。
「それにしても」
俺を見る。
「お前」
一拍。
「ほんとに何者だ?」
まっすぐな目だ。
俺は肩をすくめた。
「どこにでもいる冒険者ですよ」
ギルアは数秒黙る。
それから笑った。
「どこにでもいるか」
「ええ」
「そんなわけあるか」
ギルドがまた笑いに包まれた。
ピグが俺の服を引っ張る。
「ぶ?」
「どうした」
ピグはワイバーンを見る。
それから俺を見る。
そして小さく言った。
「ピグ」
胸を叩く。
「それ」
指を指す。
「すき!」
俺は笑った。
「ピグは本当に食べ物が好きだな」
「ぶ!」
満足そうにうなずいた。
……そこがまた可愛いんだけどね。




