そうだ、ギルドへ戻ろう!
工房の空気は、まだ少しおかしかった。
職人たちは時々こちらを見ては、またトイレを見る。
理解が追いついていないらしい。
まあ、無理もない。
トイレから森に行くなんて、俺だって最初は驚いた。
「……とりあえずだ」
さっきの職人が、ようやく口を開いた。
「鉱石は助かった」
袋の中のガラス鉱石をもう一度確認する。
光に透かす。
職人の目が完全に職人の目だ。
「質もいい」
「それはよかった」
「これだけあれば、しばらくは仕事が回る」
工房の奥から、別の職人が叫んだ。
「親方! 本物だ!」
「わかってる!」
親方らしい。
腕を組んで俺を見る。
「……お前、冒険者か?」
「まあ、そんな感じです」
「そんな感じでワイバーン十数体倒すのか?」
「倒したのは俺じゃないです」
俺は振り返る。
「鏡の少年」
人体模型に抱えられていた鏡が、すっと光る。
そこに少年が映る。
「どうも」
ぺこりと頭を下げる。
職人たちがまた固まった。
「……今度は何だ」
「鏡です」
「鏡が喋るな」
「失礼ですね」
鏡少年は少しむっとした声を出す。
「僕は立派な七不思議ですよ」
「七不思議ってなんだ」
「説明が難しいです」
確かに。
俺も説明できない。
親方が深く息を吐いた。
「……まあいい」
諦めたらしい。
「とりあえず礼はする」
俺は首を振った。
「礼はいらないです」
「は?」
「代わりに作ってほしいものがあります」
工房の空気が変わった。
職人たちの視線が集まる。
「何だ」
「皿とグラス」
「……それだけか?」
「人数分」
俺は後ろを見る。
「ピグ」
「ぶ!」
「金次郎」
「左様。」
「鏡の少年」
「はい」
「人体模型」
「イジョウ、アリマセン。」
親方が数える。
「……多いな」
「あと花子さん」
「増えた」
親方が頭を押さえる。
「まあいい」
ガラス鉱石を持ち上げる。
「この量なら、いい皿が作れる」
「お願いします」
「時間はかかるぞ」
「何日ぐらいかかりますか?」
「3日くれ。」
「わかりました、また3日後に来ます。」
腕を組んだ親方が苦笑いする。
「……面白い連中だな」
「よく言われます」
「普通ならワイバーン討伐の話をするところだ」
「そうですね」
「だがこの街は」
親方は肩をすくめた。
「平和だからな」
ワイバーンの件も、材料の問題でしかない。
命の危機ではないらしい。
確かにこの街、妙に落ち着いている。
「いい街ですね」
「だろ」
親方が笑った。
「また来い」
「皿できたら呼ぶ」
「楽しみにしてます」
俺は振り返る。
「行くか」
「ぶ!」
「左様」
「イジョウ、アリマセン。」
俺たちは工房を出た。
外は昼の光。
相変わらずガラスがきらきらしている。
さて。
次は――
「ギルドか」
ピグが元気よく言った。
「せんせ!」
俺は笑った。
「そうだな、ピグ」
解体と鑑定が終わってる頃だろう。




