表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/21

トイレ事件は終わらない。

「……もう一回言え」


 職人が震える声で言った。


「ガラス鉱石です」


 俺は袋を差し出す。


 中には透明な石。


 ガラス鉱石。


 職人は袋を受け取り、恐る恐る中を見る。


 そして――


「……本物だ」


 ぽつりと呟いた。


 周りの職人たちがざわつく。


「嘘だろ」


「北の洞窟だぞ」


「ワイバーンいたんじゃ」


「いましたよ」


 俺は普通に答える。


「十数体くらい」


 職人たちが固まった。


「……」


「……」


「……」


「倒しました」


 静寂。


 次の瞬間。


「どうやってだ!!」


 工房に怒鳴り声が響いた。


「まあ色々」


「色々って何だ!」


 職人が頭を抱える。


 そして、ゆっくりと俺を見る。


「……おい」


「はい」


「お前、昨日」


「はい」


「トイレ入ったよな」


「入りました」


「そこから一晩消えたよな」


「そうですね」


 職人が振り返る。


 問題のトイレを見る。


 そしてゆっくり歩く。


 扉を開ける。


 中を見る。


 普通の個室。


「……普通だ」


「普通ですね」


 職人が俺を見る。


「入れ」


「はい?」


「入ってみろ」


 実験らしい。


 俺は素直にトイレに入る。


 個室の中。


 後ろから職人たちが覗いている。


「……で?」


「何も起きませんね」


 俺はドアを閉める。


 そして。


「花子さん」


 ぼそっと呼ぶ。


 空間が揺れる。


 白い手。


 壁から伸びる。


「呼んだ?」


 甘い声。


「さっきの森へ」


「いいよ」


 ドアを開ける。


 森。


 数秒後。


 もう一度ドアを開ける。


 工房。


 職人たちが見ている。


 俺は普通に外へ出た。


「……」


「……」


「……」


 職人の口が開いた。


「は?」


「ただいま」


「いや待て」


 職人がトイレを見る。


 俺を見る。


 またトイレを見る。


「今どこ行った」


「森」


「森ぃ!?」


 工房がざわつく。


「トイレだぞそこ!!」


「まあ見た目は」


「見た目!?」


 職人が壁に手をつく。


「意味が分からん」


 そのとき。


「ぶ!」


 ピグが前に出た。


 串焼きの匂いを思い出したのか、鼻をひくひくさせている。


 職人の視線が集まる。


「……オーク?」


「ぶ!」


 ピグは胸を張る。


 そして言った。


「ぴぐ!」


 自己紹介だった。


 職人が固まる。


「……喋った」


「まあ少し」


 ピグが俺の服を引っ張る。


「せんせ」


「ん?」


 指差す。


 炉の横。


 肉を焼いている職人がいる。


 ピグの目が真剣だ。


「ピグ」


 一拍。


「これ」


 さらに一拍。


「すき」


 俺は笑った。


「腹減ったか」


「ぶ!!」


 元気よく跳ねる。


 職人たちはまだトイレを見ている。


 頭が追いついていないらしい。


 まあ仕方ない。


 普通はそうなる。


 だって――


 トイレから森に行く奴なんていない。


ましてや、喋るオークもいる訳ない。


職人が恐る恐る手渡した肉を両手で受け取るピグ。


「ピグよ、お礼はなんて言うんだったか?」


金次郎が静かに告げる。


「ぶ…?」


首を傾げるピグ。


「おや…しゅみ…!」


元気よく答えるピグ。


可愛い。可愛すぎる。


「違いますよ、'ありがとう'と言うんです。」


鏡の少年が静かに答える。


「あり…が……と…!」


ピグが顔を上げ、ぱああっとした瞳で職人に向かって伝える。


礼を言われた職人が頭を抱えている。


わかる、可愛いよな。頭抱えちゃうぐらい可愛いよな。


ピグは、両手で肉を握りしめ口いっぱいに頬張っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ