俺の常識、職人の非常識…!?
目が覚めた。
天井は見慣れた白い板張り。
ベッドの匂いも、なんとなく学校っぽい。
増える階段の先にある異空間――
見た目は完全に学校の保健室だ。
「……異世界なのにな」
「ぶも」
胸の上でピグがもぞもぞ動いた。
まだ眠そうだ。
「おはよ」
「ぶ!お…はよ…!」
少し舌がもつれているが、頑張って言っている。
かわいい。
俺はベッドから起き上がる。
窓の外は柔らかい朝の光。
「そろそろ戻るか」
俺は増える階段を呼ぶ。
階段は相変わらず何も喋らないが、静かに現れる。
階段を降りると、そこは――
昨日の森。
ひんやりした空気が肺に入る。
「よし」
その瞬間。
ガサッ。
茂みが揺れた。
ゴブリンが三匹。
「グギャ!」
朝から元気だな。
「鏡少年」
「はいはい」
鏡少年を抱えた人体模型が1歩前に出る。
軽く鏡を傾けた。
ゴブリンの姿が映る。
次の瞬間。
ズルッ。
ゴブリンの体が歪む。
まるで底なし沼に落ちるように――
鏡へ吸い込まれた。
一匹。
二匹。
三匹。
全部。
ほんの数秒。
森は静かになった。
「掃除完了です」
「強すぎるだろ」
「ぶ!」
ピグがぴょんと跳ねた。
俺たちはそのまま森を歩く。
途中でオークが一体出たが、
「鏡少年」
「はい」
――吸い込まれて終了。
この世界の魔物はだいぶ可哀想だと思う。
しばらく歩くと、木々が開けた。
そこにあるのは――
森の中のトイレ。
昨日使ったワープ地点だ。
「到着」
俺はドアを開ける。
中は普通の個室。
金次郎も、鏡少年も、人体模型も、ピグも入る。
ドアを閉める。
そして言う。
「トイレの花子さん」
「ねえね!」
ピグが被せるように呼んだ。
空間がゆらりと歪む。
「キャワイイ!」
「僕のことは、いつにいにって呼んでくれるんでしょうか。」
なにか悲鳴と文句が聞こえた気がするが気にしない。
そして。
ドアを開ける。
――熱気。
炉の炎。
ガラス工房だ。
普通に外へ出た。
その瞬間。
「……」
職人が固まった。
完全に停止している。
俺を見る。
トイレを見る。
もう一度俺を見る。
「……おい」
「はい?」
「お前」
「はい」
「昨日トイレ入ったよな」
「入りました」
職人の顔が引きつる。
「……丸一日出てこなかったんだが」
「あー」
そういえばそうか。
「長かったですか?」
「長ぇよ!!」
工房に怒鳴り声が響いた。
「人がトイレで一晩消えるか普通!?」
「まあ確かに」
「ていうか!」
職人が俺の後ろを見る。
金次郎。
鏡少年。
人体模型。
そしてピグ。
怪しさ満点の集団だ。
「お前ら何なんだ!!」
俺は袋を差し出す。
「ガラス鉱石」
職人が固まる。
「……は?」
「洞窟の」
「……」
「ワイバーンも片付きました」
沈黙。
数秒。
十秒。
職人の顔がゆっくり歪む。
「……おい」
「はい」
「トイレの中で何した」
「色々」
「色々って何だ!!」
工房に怒鳴り声が響いた。
ピグが俺の肩で小さく言う。
「ぶも」
……まあ。
普通そうなるよな。
昨日も言ったが、俺でも驚く。
トイレに入った奴が、一晩消えてたら。




