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11/21

うまい飯は、世界を救う。

ギルドを出ると、昼の光がまぶしかった。


「終わるまで出かけて来い、か」


 鑑定が終わるまで時間がある。


大きなカゴを背負った銅像。

その手に握られた紐の先には、ソリ。

そしてソリの上に座るオーク。

その横で鏡を大事そうに抱えて立っている人体模型。


___そして、俺。


あまりにもトンチキすぎて、どこに行くにも視線が集まる。だが、仕方ない。


 さて、どうするかと通りを見渡すと、通りの向こうがやけに賑やかだった。


 笑い声と、焼ける音。

 香ばしい匂いが風に乗ってくる。


「……屋台街か」


「ぶ?」


 ピグが鼻をひくひくさせる。


 食いしん坊はもう察しているらしい。


「ちょっと見ていくか」


 石畳を進むと、通りは自然と色づいていった。


 ガラス細工の風鈴が揺れ、透明なランプが昼の光を受けてきらめいている。屋台の天幕にも小さな硝子玉が縫い込まれていて、動くたびに光を散らしていた。


 さすがガラスの街だ。


 焼き串の煙が上がる屋台。

 甘い匂いの菓子。

 色とりどりの果実水。


 そして――


 俺は、ある屋台の前で足を止めた。


 氷の塊をくり抜いた透明な器。


 その中に、細い白い麺が涼しげに揺れている。


 上には刻まれた青菜と、透き通ったつゆ。


 陽の光を受けて、きらりと光った。


「……そうめん?」


 思わず声が漏れる。


 店主がにやりと笑った。


「お兄さん、食べてくかい? 氷器そうめん。うちの名物だ」


「ぶも……?」


 ピグがソリから飛び降りると器を覗き込む。映り込んだ自分に一瞬びくっとしてから、もう一度覗く。


 鼻先がひんやりしたのか、小さく震えた。


「ぶ!」


「気になるよな」


 俺は苦笑して、屋台の前に立った。


 ――これは、食うしかない。


―――


「二つくれ」


「毎度。氷器そうめん二つね」


 目の前で、氷を削る音がする。透明な器が手際よく並べられ、つゆが注がれた。


 俺はひとつを手に取り、もうひとつを少し低い位置に置いてやる。


「ほら」


「ピグよ、食べる時は'いただきます'と言うのだぞ」


様子を見ていた金次郎が口を挟む。


「ぶ!いた…きま…ぶ…!」


言えてないが、可愛い。


 ピグが器の縁に前足をかける。


 氷の冷たさにびくっとして、すぐ離した。


「ぶも……」


 慎重に、麺を見つめる。


 そっと口を近づける。


 ちゅる。


 一瞬、吸えた。


 次の瞬間。


 つるっ。


 麺が跳ねて、ピグの鼻にぺたりと貼り付いた。


「ぶひっ!?」


 固まる。


 俺は吹き出した。


「落ち着け。敵じゃない」


「ぶ……」


 鼻に麺をつけたまま、こちらを見る。


 完全に被害者の顔だ。


「先生」


 人体模型に抱えられた鏡から声がする。


「麺は吸うのではなく、すするんです」


「難易度高ぇだろ」


「ぶ!」


 ピグがもう一度挑戦する。


 今度は短くなった麺を、慎重に。


 ちゅる。


 ……成功。


「ぶひ!」


 小さく跳ねた。


「うまいか?」


「ぶ!」


 即答。


 その様子を見ていた店主が、くくっと笑った。


「そりゃよかった。あんたら観光かい?」


「まあ、そんなもんだ」


 俺は自分のそうめんをひと口すする。


 冷たい。

 つゆは薄味だが、出汁が効いている。


 悪くない。


 そのとき、背後から香ばしい匂いが漂ってきた。


 じゅう、と肉の焼ける音。


 ピグの耳がぴくっと動いた。


「ぶも……」


 ゆっくり振り向く。


 視線の先には、串焼きの屋台。


 黄金色に焼けた肉から、脂が落ちている。


「……追加だな」


「ぶ!!」


 今度は全力。


 俺は笑って、串焼きの屋台へ歩き出した。


「いらっしゃい、兄さん。」


串焼き屋台の店主はいかにもなトンチキ集団を前に臆する事なく、笑顔で俺たちを出迎えてくれた。


「串焼き、3本ください。」


「はいよ。」


じゅう、といい匂いがし、すぐに焼き上がる。


「おまちどうさま。」


串焼きを三本受け取る。


「ほら、ピグ」


「ぶ!」


「ピグよ、食べる時はなんと言うのだったかな?」


 両手でぎゅっと抱えて、必死にかぶりつこうとするピグを、金次郎が制する。


「いた……だ…ま…しゅ…!」


相変わらず言えていないが可愛い。可愛すぎる。


 ピグが串焼きへかぶりつくと、じゅわ、と肉汁がこぼれて鼻先がてかてかになる。


「ぶひ……ぶもぉ……」


 幸せそうだ。


「食い意地は立派だな」


「成長期かもしれませんね」


 鏡少年が涼しい声で言う。


「オークに成長期なんて概念があるのか?」


「ありますよ、きっと。希望として」


 適当だな。


 通りの奥から、透明な煙が立ちのぼっているのが見えた。


 陽の光を受けて、壁一面の色付きガラスがきらきらと輝いている。


「あれが工房か」


「左様。行ってみるか?」


「兄さんら、工房へ行くのかい?」


 俺と金次郎の会話を聞いていたのだろう、店主が声をかけてきた。


「ええ、折角なので見ていこうかと。」


「あそこは、ミラージュ厶最大の工房 ガラスル だよ。」


ただ…、と店主は声を落とす。


「今は工房内ピリピリしているかもしれないが、よかったら見ていってくれ。」


なんだか含みをもたす言い方が気にならなくもないが、好奇心には勝てない。


「ちょっと見ていくか」


「僕も鏡新調しようかな」


人体模型の抱えている鏡から姿を消し、テカるピグの鼻へ反射し姿を見せた少年がクスリと笑う。


「ぶも?」


 ピグは鼻先の少年に気付かず、まだ串に夢中だ。


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