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夢幻泡影  作者: 月光
第1章【希望】
7/8

幻想

剣が、落ちる。

レイは、それを見ていた。


(……また、一人)

誰だったかは、分からない。

名前も、顔も、思い出せない。


それなのに――

胸の奥だけが、鈍く痛んだ。


魔帝の声が、背後から落ちてくる。

「止めないのか」


レイは、反応しなかった。

いや、できなかった。

止める理由が、見つからなかった。


「さっきまで、お前は言っていたな」

「守る、と…」


レイの喉が、かすかに動く。


「だが見てみろ…」

魔帝は死体の方を指差す。


「守れたか?」


答えは、分かっていた。

分かっていたから、

言葉にできなかった。


魔将の剣が、再び振り下ろされる。

――二人目。


レイの視界が、わずかに揺れた。

(……俺が……)

思考が、そこで止まる。


逃げようとしたが、

次の言葉が、勝手に続いた。


(……俺が、希望なんて……)


レイの指先が、微かに震えた。


「希望を与えたのは、お前だ」

「諦めるな、と言ったのも」

「戦える、と信じさせたのも」

一歩、近づく気配。


「殺したのは私たちだが…死なせたのは、お前だ」

――その言葉で、何かが切れた。


レイの中で、

最後まで残っていた“言い訳”が、崩れ落ちた。


(……違う……)

否定したかった。



――みんな、諦めるな!希望を信じ続けてくれ!!

自分が放ったこの言葉が、心を締め上げる。


否定できる理由が、どこにもなかった。



剣が落ちる。

――三人目。


レイは、目を逸らさなかった。

逸らす資格が、ないと思った。


(俺が……信じさせた……)


(俺が……戦わせた……)


(俺が……)


思考が、そこから先に進まない。


魔帝は、満足そうでもなく、

失望するでもなく、ただ事実を告げる。


「信じさせ、期待させ、前に出させて…

最後に、見殺しにする…」


魔将の剣が、血を払う。

次の標的へ向かう背中が、

やけに遠く見えた。


レイの胸の奥で、何かが沈んでいく。


もう、立とうとも思わなかった。


魔帝が、最後に言う。

「だから私は、希望が嫌いだ」


「希望は、責任を取らない」


「責任を取るのは、いつも――」

「残された者だけだ」


レイは、目を閉じなかった。

閉じたら、自分が逃げたことになると思ったからだ。


(……全部……)


(……俺のせいだ……)


「もう十分だ」

魔帝は、倒れ伏すレイを見下ろす。


「その壊れっぷり――」

一瞬、口角がわずかに上がる。


「悪くなかったぞ、人間」


レイの瞳が、かすかに揺れる。


「……っ」


魔帝は、静かに腕を伸ばした。

「私が直々に殺してやろう…」


絶望の魔帝の剣が、レイの首に迫る。


――その瞬間、空気が震えた。

どこからともなく、声が響く。


「…待て、絶望の魔帝」


絶望の魔帝は一瞬、動きを止めた。

低く、声を漏らす。


「……何者だ?」


声は静かに答える。

「我にも目的があるのだ…邪魔をするな」


絶望の魔帝は、しばし沈黙した。


そして刃をわずかに下げながら、鋭く問い返す。


「貴様の目的は何だ?」

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