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夢幻泡影  作者: 月光
第2章【愛執】
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寵愛

「リン……か」

カイが名を反芻するように呟いた。


警戒は解いていないが、

剣先はわずかに下がっている。


「……助かった」

そう言ってから、少し間を置いて続けた。


「さっきの魔徒、俺たちじゃ終わらせきれなかった」


リンは短く首を振る。

「偶然よ。相性がよかっただけ」


その言葉に、レイは視線を向けた。

リンの声は落ち着いているが、

短剣を握る指先は強張っている。


「行こうか」


カイが周囲を見渡す。

「もう、完全に領地の中だな」


「ええ、境界は越えてる…」


歩き出すと、足音がやけに大きく響く。

敵はいない。 それなのに、空気だけが重い。


「……何も出てこねぇな」 カイが低く言う。


「普通じゃないわ」

リンはそう答えた。


その直後だった。


地面が、わずかに沈んだ。


「……来る」

リンが低く言う。


次の瞬間、地面が裂け、

黒い腕が這い出してきた。


その腕は人間のもののように見えるが、

節や関節が不自然に歪み、爪は鋭く伸びていた。


「……な、なんだ……?」

カイが剣を構え、目を凝らす。


「……魔将…!」

リンの声は低く、冷静だ。だがその瞳は、

黒い腕から放たれる圧迫感に釘付けになっていた。


腕は地面を叩きつけるたび、砂や岩が粉々に砕け、

亀裂が次々と走る。


その裂け目から、さらに異形の手や肢が蠢き、まるで大地そのものが生きているかのように動く。


「来るぞ、レイ!」

カイが叫ぶ。レイも無言で拳を握る。


魔将の腕が同時に三方向から振り下ろされる。

拳を突き出し、レイは一撃を受け止める。

衝撃で地面が割れ、周囲の砂が巻き上がる。


「――重い……!!」


カイが剣を振るい、飛び掛かる腕を切断する。

しかし切った瞬間、腕はゆっくりと元の形に戻り、

再び攻撃の準備を整える。


「雑魚と同じ再生……じゃねえな」


リンが短剣を握り直す。


大地から這い出す腕は増え、

領地全体が生き物のように蠢き始めた。


空気は重く、呼吸するのも困難だ。

レイは拳を握り締め、

砂煙の中で魔将の腕を睨みつける。


カイも剣を構え、リンは静かに呼吸を整えた。

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