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夢幻泡影  作者: 月光
第2章【愛執】
13/14

求愛

魔徒が跳躍した。


腕が鞭のようにしなり、レイの喉元を狙う。


レイは半歩踏み込み、拳を振るった。


ドンッ。


拳が胴を捉え、魔徒の体が歪む。

肉と骨が潰れ、黒い体液が飛び散った。


だが――


ぐちゃり、と音を立てて、崩れた肉塊が蠢く。

裂けた胴体が引き寄せられるように繋がり、

潰れた顔が、再び形を成していく。


「……っ、再生するぞ!」

カイが叫び、剣を振るう。


一閃。

魔徒の腕が切断され、地に落ちる。


しかし、切り口から粘ついた肉が溢れ、

新たな腕が、まるで伸びるように再生した。


「終わらねぇな、こいつ……!」


魔徒は声にならない呻きを漏らしながら、

再び距離を詰めてくる。


「……再生が早い」

レイは短く言い、構えを取り直す。


魔徒が二体、三体と姿を現す。

赤黒い大地から、這い出るように。


「数で押す気か」

カイが前に出て、剣で牽制する。


斬るたびに肉は裂け、

だが倒れたはずの魔徒は、すぐに起き上がる。


「……なら」

レイは踏み込み、魔徒の懐に入った。


連打。

腹、顎、胸。

ドッ、ドン、ズン。


衝撃で魔徒の体が粉々に砕け散る。

砂の上に広がる、黒い肉片。

一瞬、動きが止まった。


「いけるか……?」


――だが次の瞬間、

肉片が震え、互いに引き寄せられる。


「……!」

再び形を取り戻し、

魔徒は立ち上がった。


「……終わらねぇ」

カイが息を吐く。


その時だった。


――ズン、と空気が沈んだ。


砂煙の向こうから、ひとつの影が歩み出る。

長い外套に身を包んだ、少女。


その手には、鈍い光の短剣。


「……まだ、それを“愛”だと思ってるの?」

静かな声。


魔徒の動きが、わずかに止まった。

「……あ……?」


少女は、ゆっくりと歩み寄る。

「それは執着。失ったものを、手放せないだけ」


「――悲しい、って思うことから

 逃げ続けた結果でしょ」


次の瞬間、短剣が、魔徒の胸を貫く。


――再生しない


「……?」

裂けた傷口から、黒い肉が零れ落ちる。

だが今度は、引き寄せられなかった。


「……あ……あ……」


魔徒の体が、崩れていく。

まるで、支えを失ったかのように。


「……お前、なにをした…?」

カイが息を呑む。


少女は振り返らず、淡々と答えた。

「…悲しみの感情を、この剣に宿したの」


砂の上に、魔徒は完全に崩れ落ちた。

黒い染みだけを残して。


静寂。


風が、赤黒い大地を撫でていく。

レイは、拳を握ったまま動けなかった。


(……今のは……)


同じ“攻撃”だった。

なのに――決定的に、違った。


(……胸が……ざわつく……)


リンが、ゆっくりとこちらを向く。

「……あなたたちも、魔帝を追ってるの?」


カイが一歩前に出る。

「そうだ。名は?」


少女は、少しだけ視線を落とし、答えた。

「リン…」



愛執の魔帝の領地は、なおも広がっていた。

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