求愛
魔徒が跳躍した。
腕が鞭のようにしなり、レイの喉元を狙う。
レイは半歩踏み込み、拳を振るった。
ドンッ。
拳が胴を捉え、魔徒の体が歪む。
肉と骨が潰れ、黒い体液が飛び散った。
だが――
ぐちゃり、と音を立てて、崩れた肉塊が蠢く。
裂けた胴体が引き寄せられるように繋がり、
潰れた顔が、再び形を成していく。
「……っ、再生するぞ!」
カイが叫び、剣を振るう。
一閃。
魔徒の腕が切断され、地に落ちる。
しかし、切り口から粘ついた肉が溢れ、
新たな腕が、まるで伸びるように再生した。
「終わらねぇな、こいつ……!」
魔徒は声にならない呻きを漏らしながら、
再び距離を詰めてくる。
「……再生が早い」
レイは短く言い、構えを取り直す。
魔徒が二体、三体と姿を現す。
赤黒い大地から、這い出るように。
「数で押す気か」
カイが前に出て、剣で牽制する。
斬るたびに肉は裂け、
だが倒れたはずの魔徒は、すぐに起き上がる。
「……なら」
レイは踏み込み、魔徒の懐に入った。
連打。
腹、顎、胸。
ドッ、ドン、ズン。
衝撃で魔徒の体が粉々に砕け散る。
砂の上に広がる、黒い肉片。
一瞬、動きが止まった。
「いけるか……?」
――だが次の瞬間、
肉片が震え、互いに引き寄せられる。
「……!」
再び形を取り戻し、
魔徒は立ち上がった。
「……終わらねぇ」
カイが息を吐く。
その時だった。
――ズン、と空気が沈んだ。
砂煙の向こうから、ひとつの影が歩み出る。
長い外套に身を包んだ、少女。
その手には、鈍い光の短剣。
「……まだ、それを“愛”だと思ってるの?」
静かな声。
魔徒の動きが、わずかに止まった。
「……あ……?」
少女は、ゆっくりと歩み寄る。
「それは執着。失ったものを、手放せないだけ」
「――悲しい、って思うことから
逃げ続けた結果でしょ」
次の瞬間、短剣が、魔徒の胸を貫く。
――再生しない
「……?」
裂けた傷口から、黒い肉が零れ落ちる。
だが今度は、引き寄せられなかった。
「……あ……あ……」
魔徒の体が、崩れていく。
まるで、支えを失ったかのように。
「……お前、なにをした…?」
カイが息を呑む。
少女は振り返らず、淡々と答えた。
「…悲しみの感情を、この剣に宿したの」
砂の上に、魔徒は完全に崩れ落ちた。
黒い染みだけを残して。
静寂。
風が、赤黒い大地を撫でていく。
レイは、拳を握ったまま動けなかった。
(……今のは……)
同じ“攻撃”だった。
なのに――決定的に、違った。
(……胸が……ざわつく……)
リンが、ゆっくりとこちらを向く。
「……あなたたちも、魔帝を追ってるの?」
カイが一歩前に出る。
「そうだ。名は?」
少女は、少しだけ視線を落とし、答えた。
「リン…」
愛執の魔帝の領地は、なおも広がっていた。




