夢
避難所の隅から少女が駆け寄ってきた。
ミナだ。
「ガルドさん!レイ!」
ミナの目は心配でいっぱいだった。
「ここまで無事でよかった…はやく休んで」
レイは視線を落とした。
「……俺は……休む価値なんてないんだ…」
ミナはそっと手を伸ばし、レイの肩に触れる。
「あなたは生きてここにいる、それだけでいいの」
ガルドは静かに頷く。
「まだ、できることはある…諦めるな」
――みんな、諦めるな!希望を信じ続けてくれ!!
レイはミナの手、ガルドの声を感じながらも、
胸の奥がひどく締め付けられた。
(……希望なんて信じさせちゃいけなかった…)
(……希望を信じて、みんな死んだ…)
瓦礫の記憶、
振るえながらも前に出ていった者たちの姿
――すべてが頭の中で繰り返される。
「……俺は……絶望の中に、希望を植え付けた」
その言葉が、喉の奥から零れ落ちる。
ミナは微かに眉を寄せ、心配そうに見つめる。
「レイ…?」
だがレイの視線は遠く、絶望に染まっていた。
(……俺は、もう…救えない……)
背中で支えるガルドの力が伝わる。
だが、それすら慰めにはならない。
自分の放った言葉の重さ、責任、
それを全て背負い込み、胸を押し潰す。
ミナはレイの肩にそっと手を置き、
真っ直ぐに目を見据えた。
「レイ…生きている限り、希望は消えない。」
「たとえ絶望に打ちのめされても、
あなたの一歩は誰かを救う力になるのよ」
その声は、優しくも強く、
戦場の残骸の中で光のように響いた。
「諦めたら、そこで終わり。よく言うでしょ?
でも、立ち上がれば、まだやれることがある
それこそが…生きる意味なの」
レイの胸に、言葉が重く、そして確かに落ちた。
(……まだ、終わっていない……)
レイはすぐには立ち上がらなかった。
ミナの言葉が胸に落ちたまま、沈んでいく。
(……終わってない……?)
指先が、わずかに動く。
瓦礫の冷たさが、掌に伝わる。
立つ理由なんて、まだ見つからない。
希望を信じる資格があるとも、思えない。
それでも――
(……逃げたままじゃ……)
歯を食いしばり、レイは地面に手をついた。
膝が震え、体が言うことを聞かない。
「……っ……」
一度、力が抜けて崩れかける。
その瞬間、ガルドの手が背中を支えた。
ミナも、何も言わずにそばに立つ。
手を離さず、ただ見守っていた。
レイは、深く息を吸う。
――みんな、諦めるな
かつての自分の声が、胸を刺す。
「……俺は……」
震える足で、ゆっくりと体を起こす。
完全じゃない。
真っ直ぐでもない。
それでも――立った。
「……俺は……まだ…」
顔を上げ、避難所の薄暗い天井を見る。
「……ここで終わるわけには、いかない」
ミナの目が、わずかに見開かれる。
ガルドは、何も言わずに小さく頷いた。
レイは、拳を強く握りしめる。
その足取りは重く、頼りない。
だが確かに、レイは前を向いていた。
――絶望の底で、
再び立ち上がるための、一歩目として。
三日後、避難所の小窓から差し込む光。
瓦礫と埃に覆われた街を、静かに見下ろすレイ。
体はまだ重く、傷跡も痛む。
だが、心に芽生えた何かがある――かすかな光。
(……俺は……諦めないと決めた…)
(……それでも、失ったものは大きすぎる……)
頭上の空を見上げる。青く、広く、そしてどこか遠い。
(……それでも)
(……俺は……まだ、生きている……)
(まだ、できることがある……)
拳を握る。
揺れる背筋。足取りはまだ頼りない。
だが確かに、心は少しだけ前を向いていた。
(……終わりじゃない)
風が瓦礫の匂いを運び、避難所の静けさに溶ける。
レイの目には、遠い未来への小さな決意が映った。




