警視庁陥落 そして お巡りさんダンジョンへ
江崎葵が泣きながら顔を両手で覆った。
「外へ出れないまま遭難して死ぬなんて。折角助かったのに」
……命を無駄にするのはダメよ……
芳乃は息を吐き出すと
「俺はもう一度そこの分岐から戻って奥を探ろうと思う」
と告げた。
「ダメだったら戻るかもしれないけど……この一帯が抑えられている可能性もあるし、捕まったら殺される可能性がある。だったら少しでも遠くの出口で再起をかける方が良いと思う」
波瀬浩司は息を吐き出すと
「こんな闇の迷路だ。迷走して遭難して戻れないかも知れないがそれでもいいと思うなら行けばいい。運が良くても戻るだけになるだろうからな」
と告げた。
「それこそ折角我々と共に外へ出れるというのに」
そう言って足を踏み出した。
「安全に助かりたい人は俺と外へ」
仲間優也は肩を竦めて
「まあ、俺は助かりたいからな。皆、行こうぜ」
と波瀬浩司の後について足を進めた。
岡崎信二は愛を見て
「上田さん、一緒に彼らと行った方が良いと俺は思うんですけど」
とチラチラと波瀬浩司達の方を見た。
愛はにっこり笑って
「岡崎くんが行くなら行って、私は長瀬さん達と取りあえずもっと安全な場所があるか確認するわ」
と告げた。
岡崎信二は顔を顰めて
「えー」
というと全てを諦めたように
「しょうがありません、上田さんについて行きますよ」
と芳乃たちの方へと足を進めた。
正に選択の時であった。
誰もがそれぞれの顔を見合わせどうするかを迷っていた。ただ遭難するかもしれない地下迷路へ戻るという選択は難しかった。
和己は芳乃と合流しながら
「まあ、こいつのことを知らなきゃそりゃそうだ」
と心で突っ込み
「俺は同じ7階仲間と今度は一緒するか。仲直りもしないといけないしな」
と告げた。
「お前と一緒ならどんなダンジョンでも迷子はない」
結局、芳乃たちの元に来たのは岡崎信二と遠野順一、杉村翔の三人だけで波瀬浩司を含めた8名はそのまま出口へと立ち去った。
芳乃は最後の分岐から更にもう一つ奥の分岐へと戻りそこで愛を見た。
「改めて紹介してもらえるか?」
愛は頷いて
「私は上田愛、それでこっちが岡崎信二。そして、貴方はサイバー対策管理部の遠野順一さんと杉村翔さんよね? どうしてこっちにしたの?」
と聞いた。
遠野順一はフゥと腰に手を当てて
「誘導者が知らんやつより知ってるやつ」
と告げた。
「向こうは知らんやつだからな」
杉村翔もにっこり笑って
「俺は遠野さんが心配だからこっち。遠野さん人見知りは激しいからね。俺がいないとコミュ力も問題だし」
と告げた。
遠野順一は目を細めて
「いま俺の方が応えてただろ」
と睨んだ。
杉村翔は笑って
「いや~、言い方がねー」
と告げた。
「それで偽名の人の名前はちゃんと教えてくれるの? 淡島さん」
ニッコリ言われて和己は
「気付かれていたのか」
と心で突っ込んだ。
それに杉村翔はケタケタ笑って
「だって二階のサイバー警察局の淡島さんが片倉って名乗ってるしー、7階でって話してるしー、変でしょ」
と返した。
遠野順一は冷静に
「ま、嘘の喧嘩も気になった」
と告げた。
え!? 心読まれてる? と和己はギョッと杉村翔と遠野順一を見た。
芳乃は冷静に
「上田さんも癖強に感じたけど、彼らも癖強だな」
一人だけマトモっぽいのが岡崎さんだけかお気の毒、と岡崎信二に一瞬憐れみを含んだ目を向けたものの視線を彼らに戻し
「淡島警視を知っているのなら大丈夫だな」
と判断した。
「俺は刑事部捜査一課第三係の名前は亜久里芳乃だ。実はあのメンバーの中に偽警官がいるかもしれない疑惑があったので本名を避けた」
そう芳乃は告げて頭を下げた。
和己もまた
「俺はこいつの相棒の警部捜査一課第三係の南部和己だ」
宜しく、と告げた。
粗方自己紹介が終わると芳乃は春姫を見た。
春姫はそれに頷くと
「実は俺たちが目指すのは出口ではなく……お巡りさんシステムダンジョンだ。日本警察のIT能力の粋を集めた特別システム」
と告げた。
「だから絶対に信用のできる人間だけでないとそれこそ逆転のチャンスを永遠に失う可能性があった」
遠野順一は冷静に
「それは淡島警視正の父親の天才システムエンジニアである淡島サイバー警察局長が作ったとかいう噂のか?」
と聞いた。
春姫は一瞬驚いて
「知っているのか」
と言い、頷くと
「ああ、俺の父が設計し作成した」
そう告げて息を吐き出した。
「ただ、俺の父を知っていたらわかると思うが……あの人、天才だけど中二病の人だったのでね。命の保証はしかねる」
杉村翔が困ったように
「お噂だけはかねがね。疑似魔法を開発しようとしてたとか、変な噂が飛びまくってましたよね?」
と答えた。
芳乃も和己も同時に
「「サイバー警察局局長だろ? おいおい、どんな人だよ」」
と心で突っ込んだ。
杉村翔は更に肩を竦めて
「まさか、そういうリアルゲーム世界とかをご冗談で警察の地下で作ってたとか言わないですよね?」
とアハハハと笑って告げた。
それに春姫はスッと視線を逸らせた。
肯定と言うことだ。
「ただ形勢を一発逆転できるシステムある事には違いないのでね」
それに愛が
「とにかく、急ぎましょう。大丈夫。ダンジョンでもゲームでも攻略できるわ」
と胸を張って答えた。
「もし波瀬という人が偽警官だったら行った人たちを助けないといけないし、きっと都民だって今大変なことになってるわ」
……警視庁や警察庁がめちゃくちゃになっているんですもの……
「司法が終われば人々は無法地帯で弱肉強食の嵐に飲まれるわ」
それに芳乃は頷いた。
そうなのだ。
一刻も早く日本の警察がその公職能力を取り戻さなければならないのだ。
芳乃は意を決すると
「ここにいる全員を信じて……淡島警視、お巡りさんシステムダンジョンへ」
と告げた。
「どんなダンジョンだろうと、俺は攻略してみせる」
春姫は頷いた。
「では命がけのダンジョンへ」
……案内しよう……
そう言って船頭役の春姫は足を踏み出すと闇が延々と続く地下通路を3つ目の分岐まで戻り、そこから右……つまり、入口から見れば左の道を選んで闇が広がる道を進んだ。
更に分岐を幾つか乗り越えて、その先に荘厳な扉が芳乃たちを出迎えたのである。
お巡りさんシステムのダンジョンであった。
芳乃も和己も春姫以外の誰もが息を飲み込んでその荘厳な彫りが施された扉を見つめてあんぐりと口を開けて見つめた。
東日本一帯のライフラインの全権を掌握している影の巨大システムお巡りさんシステムを守るために作られたダンジョンの入口であった。




