警視庁陥落 6
仲間勇也は笑いながら
「まあ、どっちも落ち着いてくれよ。こんなところで喧嘩して時間を減らすより先を急いだほうがいい」
と慰めた。
上田愛も頷いて
「そうね。こんな迷路を一人で攻略は実際無理ですよ。取り合えず出てから話し合いましょ」
と告げた。
芳乃は唇を尖らせると
「悪いけど、俺は別行動をとらせてもらう。怪しいやつとは一緒に行けない」
と来た道を戻り始めた。
上田愛は慌てて
「ちょっと! 待ってください! 現実なんですよ! 兵士と合ったら大変です!」
と芳乃の後を追いかけようと足を踏み出した。
江崎葵が彼女の手を掴み
「待って! そうよね、それに迷子になるかもしれないわね」
私も付いていくわ、と足を踏み出しかけた。
波瀬浩司は少し考えて
「ちょっと、待て」
と言うと和己を見て
「君たちは同じ7階からだったんじゃないのか?」
と聞いた。
和己は頷いて
「ええ、まあ……ちゃんと話したのはこの混乱の時に偶然合流したからなんですけど」
と息を吐き出した。
「何か、あいつ……兵士と警察官が合流したのを見たみたいで……だから俺もその一人かもと疑ったのかもしれないですね。まあ、奴の見間違えで兵士に警察官が捕まっただけかもしれねぇのに」
はぁと肩を竦めて告げた。
波瀬浩司は「兵士と警察官が落ち合っているのを……か」と言うと
「まあ、それを見たなら疑心暗鬼になるかもしれないが。これ以上時間は無駄にできない。先みたいに後ろから追手が来るかもしれないからな。脱出が先だ」
と行こうとしていた江崎葵の手首を掴むと
「江崎さんも助かる方を選んだ方が良い」
と歩き出した。
彼女は小さく頷くと上田愛の手を掴んだまま
「わかりました。上田さんも一緒に行きましょ」
と足を踏み出した。
上田愛は戸惑いながら
「でも、たった15名しか助かっていないのに……一人と言っても見捨てるのは」
と顔を顰めた。
江崎葵はそれに
「仕方ないわ。一人で枠からはみ出したんですもの。それに彼は唯の警察官だわ。重要な人じゃないもの」
と言い
「今は一人でも多くの優秀な人が助かる必要があるわ」
と告げた。
「追手が来たら全滅よ」
全員がそれに視線を伏せて気にしながらも足を踏み出した。
春姫は立ち止まると
「あの、一人でも……俺は見捨てられないので……もし良かったらこの先の行き方を教えて貰ったら」
と告げた。
「同じ七階仲間なので」
波瀬浩司は春姫を見て
「そうか、君も七階の」
と呟き
「わかった、次の分岐を右に行き、最後の分岐も右だ」
と告げた。
「辿り着くことを祈っている」
春姫は頷いた。
波瀬浩司は振り向いて
「まあ、同じ七階の仲間ということで行きたければ止めないが気を付けなさい」
と歩き出した。
春姫は踵を返すと
「はい、俺は七階の仲間を大切にしたいので」
と足を踏み出して芳乃の後を追いかけた。
和己は内心安堵しながら
「やはり、ここで助かった奴らには何かあるんだな。しかも波瀬って奴の言動はおかしいし、あの江崎ってやつも完全に俺らと同行していたやつを区別しているな」
と心で呟いた。
上田愛は立ち止まり少し考えると
「や、やっぱり。私も後を追いかけて説得してきます!」
と言うと江崎葵の手を振り払って走り去った。
波瀬浩司は僅かに舌打ちしたものの
「じゃあ、いこう」
と歩き出した。
和己は黙って彼らの後について出口へと向かった。
芳乃は暫く走って一つ手前の分岐につくとフゥと息を吐き出した。
「もう一つ戻るか」
そう言って足を踏み出しかけて手を掴まれた。
「俺も君の方へ来た」
芳乃は驚いて
「あわし……」
と言いかけて春姫に手で止められた。
足跡が春姫の後ろから近付いて上田愛が姿を見せた。
「良かった。兵とは出会ってなかった。良かった」
芳乃と春姫は彼女を見て
「「上田さん」」
何故? と問いかけた。
彼女は笑むと
「私、お二人の正体を知っているんです。でも何故偽名を?」
と告げた。
……亜久里刑事と淡島警視ですね……