警視庁陥落 4
三人が銃を構えながら二階から一階へ降りて目に飛び込んできた光景は戦場であった。
一階の廊下には抵抗を続けて撃たれた警察官の骸や攻め込んできた兵士の骸も夥しく積み重なり、壁や床に飛び散った朱が攻防の激しさを教えていた。
一見生きている人間がいないように思えたものの、用心に越したことはない。
三人は踊り場の壁に身体を付けて廊下の気配を探った。
油断は出来ない。
だが、二階へ行ったのか、既に外へ出たのか。兵士の姿は見当たらず上からの炎がモノを燃やすパチパチという小さな音だけが響いている。
和己は惨状を横目に顔を顰め
「くそが」
と小さく吐き捨てた。
絶対に許せることではなかった。
芳乃は頷いてすぐ側に俯せて倒れている警察官の背中をスッと触って目を細めた。
「まさか」
和己は芳乃の反応に足を踏み出し
「どうした?」
と廊下をスッとみた。
この辺りの近隣の警察官は同じように俯せで倒れている。
「一発でやられているみたいだな」
和己に言われて芳乃は立ち上がると春姫を見た。
「淡島警視正、その階級章を外してください。俺も外します。南部、お前も外せ……これまで兵は敵、警察官は味方と思っていたが違う状況になっているのかもしれない」
春姫は頷いて身分を示すものを外した。
和己も慌てながら
「まさか」
と言いつつも
「わ、わかった」
と階級章を外した。
芳乃は表情を一変させると
「じゃあ、淡島警視正……案内の続きを」
と告げた。
この階段の踊り場近辺の警察官は『背中から一発で』殺されている。その意味するものは背後にいた味方からやられた可能性があるということだ。
警察の皮を被った敵にだ。
春姫は芳乃の言葉の意味を正確に読み取り
「俺のことは春姫と呼んでくれ。立場を隠すなら淡島は直ぐにバレる」
と芳乃の考えを読んだように告げた。
芳乃は頷くと
「じゃあ、俺のことも芳乃と」
と告げた。
「あ、じゃあ。南部は和己な」
和己は息を吸い込み
「敵と味方の区別がつかないなんて……とんでもねぇな」
とぼやいた。
だがやるしかないのだ。
芳乃は再び春姫の案内を受けて踊り場に戻ると地下一階の駐車場の配電盤がある設備室へとたどり着いた。
春姫は小声で
「ここに地下通路の入口が」
ある、といいかけて言葉を止めた。
恐らく秘密通路を知っているのだろう人物に引き連れられた12名の男女が少し先の壁の前に立っていた。
年齢も部署も違う12名のようで階級章なども巡査長から警視など色々であった。辿り着いた芳乃たちを目に彼らの中の一番階級の高い警視の壮年男性が足を踏み出した。
「君たちは……もしかして秘密の通路を知っているのか?」