お巡りさんダンジョン一階層 10
愛は笑顔で
「私、高校時代にVRダンジョンゲームに嵌っていたんです。そして、どのゲームでも突出したスコアを叩きだすギルドがあったんです。ギルドリーダーがモグリという人のギルド名:闇夜のモグラ。ゲームチャットの噂でそのモグリさんがどんなに工夫してダンジョンを作っても『何故か』直ぐに攻略されて製作者から最恐のダンジョンマスターって言われているって」
と告げた。
「凄く憧れていて……そのモグリさんのSNSの追っかけしていたんです」
芳乃も和己も同時に横っ飛びにぶっ飛んだ。
「「マジか!」」
芳乃は天井を仰いで
「だから、最初に偽名だってわかったのか―――」
と告げた。
愛は頷くと
「はい」
と答えた。
遠野順一は冷静に
「ゲーム廃人」
と呟いた。
杉村翔は手を横に振って
「いやいや、廃人にはなってない。ちゃんと警察官しているみたいだけどな」
アハハハと笑った。
芳乃は冷静に
「一応言っとくけど、小説や漫画みたいな人知を超えた特殊能力がある訳じゃないからな」
と言い
「経験則だ。RPGでも一つやり熟せば他のRPGもこなせる。『だいたいこんなもの』ってわかるんだ」
と告げた。
「だから、上田さんも俺と変わらないさ」
そう言って
「じゃあ、行こう」
と足を進めた。
愛はそれに
「天才ってそういう自分が出来るから皆出来るって感覚あるんだろうなぁ」
と心でぼやいた。
自分には絶対に無理なのだ。
昨日のような大どんでん返しをして行かなかった場所だけをセレクトして戻るなどできない。
しかも何度もやり直したわけではない。たった一度だ。
それは誰もが考えていた。
和己は愛の横に立つと彼女の肩を軽く叩くと
「そういう意味で亜久里と淡島さんは感覚が似ているんだろうな」
と苦く笑いながら告げた。
「闇夜のモグラの中でも俺を含めて誰もが思っていたな」
愛は驚いて和己を見た。
「え? 南部さんも……?」
和己は笑うと
「あー、俺は亜久里とは違う。俺はあいつの後ろについていって仕留め役な」
と足を進めた。
愛は蒼褪めると
「仕留め役って……まさか死神カグラ」
と呟いた。
和己は笑って
「死神じゃねぇよ。けど、これを持てばモグリには近付けさせなかったけどな」
とダンジョン内の銃を見せた。
杉村翔は愛の横に行くと
「そのカグラってのもすごかったの?」
と聞いた。
愛は引き攣りながら
「ええ、バトルスコアでモグリさんも勝てない相手です。どんな戦い方していたのか……見たかったぁ」
とクゥとオタク丸出しのクゥと出した。
杉村翔はハハッと笑って
「いやはや」
とぼやき、背後の遠野順一を見て肩を竦めた。
その後、全ての分岐を幾つか制覇して長い軽いカーブを行きかけて芳乃は足を止めると銃を和己に渡した。
「このカーブを出て少し開けた場所で恐らくラスボあるかもしれない」
和己は笑むと
「ひっさびさの二丁連か。あー、しくじりそう」
と告げた。
芳乃は笑って
「南部がしくじるなら俺はもう当たらない」
と告げた。
遠野順一は少し考えると
「俺のも託す」
と和己に渡した。
杉村翔は笑って
「じゃあ俺も―――」
と渡した。
和己はフゥと息を吐き出すと
「いや、皆さん仕事してください」
と言いつつ、腰にその二つを付けて
「じゃ、上田さんと岡崎さんは援護で……淡島さんは俺の銃が玉切れしたら投げてください」
と告げた。
全員が頷いた。
芳乃は和己と共に前を行き緩やかなカーブが終わり右に二か所窪みがあり広くなっている空間に出ると警棒を出して
「全員逮捕する!!」
と叫んだ。
瞬間に赤ランプが点滅を繰り返し音が響いた。
「本拠地に到着しました」
人影が窪みや左側に幾つか現れるなり銃を構えた。瞬間にバタバタと4体のロボットが倒れた。
愛は驚き息をのんだ。
「え!? 認識する前に倒れてる」
その途端に足元に撃ち終わった銃が転がっていた。
芳乃はそれを見て
「よし! 出るぞ」
と告げた。
左奥から早い影が動いた。
芳乃は向かってきたロボットが振り上げたナイフを警棒で弾いて後ろへと飛び退いた。
和己は持ち替えた銃で高速ロボットを確実にとらえて打ち込んだ。
「はぇえって!!」
愛は銃を動かしながら
「早いって言う前に当たってますよ!」
だが自分は目で追うしか出来ない、と叫んだ。
芳乃はレーザーを3発受けても襲ってくるロボットに舌打ちしながら横へと薙ってくる切っ先を避けながら
「撃て撃て!!」
と叫んだ。
春姫は和己が全てを打ち終えると同時に銃を渡した。和己は更に二発打ち込んだ。
ロボットのスピードが落ちた。
瞬間に和己は
「上田!」
と咄嗟に叫んだ。
愛は両手で漸く反応できるスピードになったロボットにレーザーを撃ち込んだ。
芳乃もまたロボットの腕を掴むと背負い投げをして地に抑えると
「確保!」
と叫んだ。
「アジト制圧を確認しました。二階を解放します。一階のリスポーンを停止します」
全員が息を吐き出すとその場に座り込んだ。
遠野順一は芳乃や和己を見て
「なるほど亜久里警部補と南部警部補がいなければここを攻略できなかったな」
と呟いた。
「異様な反射神経と正確な射撃と瞬発力。それと同じくらい異様な完璧な方向感覚と距離感覚に動線掌握能力か」
……戦争になったら役に立つ力って事か……
「そうだな、杉村」
杉村翔は冷静に笑むと
「遠野さん」
と小さく頷いた。
芳乃は息を吐き出すとその奥の壁から現われた階段を見て
「フロアクリアだ。行こう」
と足を踏み出した。
階段を登った先にダンジョンが広がっていた。
警察ダンジョン2階のアタックの始まりであった。




