お巡りさんダンジョン一階層 2
芳乃は最初に足を踏み入れるとヒタリと汗を浮かべて周囲を見回した。
自分たちがいる空間の足元から光が当たり明るいが、少し離れた場所は闇に包まれている。
歩くごとに足元の光も移動する。つまり周辺だけ視界が利くという形だ。
「まあ、ゲームもそういう作りだからな。こんなもんだな」
だが。
だが。
芳乃は全員が驚きながら壁の一か所に目を向けるのに苦味の含んだ笑みを浮かべ
「ったく、あんたの父親の淡島サイバー警察局長ってのは唯のSEってノリじゃねぇな」
とぼやいた。
春姫はチラリと芳乃に視線を送られてフゥと息を吐き出した。
「確かにそうだね。あの人、死ぬまで子供みたいな天才だったからね。俺はまだそういう意味ではマトモな人間だと何時も思ってた」
愛は驚きながら
「ええー! 淡島警視は超ド天才ですよ? 私には全警察のデータや解析プログラムを含めたOS改造とそれに上乗せしたAIプログラムなんて設計できませんから」
と告げた。
それに全員がギョッと春姫を見た。
春姫は肩を竦めると
「子供の頃から父の手伝いをしていたら誰でもできるよ。ロジックのイメージさえ創造できれば後はそれをプログラム言語に書きかえっればいいだけだし」
とあっさり答えた。
和己はハハッと小さく笑って
「よく似た言葉を前に亜久里から聞いたことがあるが、そのイメージの創造や書き換えが誰にでも出来ると思っているところが既に非凡だと思うけどな」
と心で突っ込みつつ
「まあ、取りあえず攻略しないと俺ら野たれ死ぬし」
と告げた。
「それに先の奴らの兵士が押し寄せて来ないとも限らないからな」
そうなれば正に多勢に無勢である。
地下迷宮で兵士の攻撃を二度受けたがそれは出口へ急がせることと案内者や出口に疑念を持つ余裕をなくすことにあった茶番である。
だが次は違う。
向こうは本気で捕獲か殺しに来るだろう。
芳乃は頷くと壁の一角に設置されている10個の銃の一つを手に取って丁寧に見た。
銃弾を込める場所はなく代わりに横手に液体のメモリがあり、満タンが2であった。
実践向きではない。
芳乃は「なるほど」と息を吐き出すと
「恐らくこれはダンジョン仕様の銃だ。持っておかないとダメだな」
と告げ、その下にあった警棒の刺さったリュックも手にした。
中を開けると水の入ったペットボトルと乾パンの袋が入っていた。食料だ。
「これも全員持つこと」
それに習って和己や春姫、愛も岡崎信二も遠野順一も杉村翔も全員が銃とリュックを手にした。
その瞬間に壁がせり上がり壁の一部と化した。
つまり参加者を決定したということだ。
芳乃は全員が銃を手にリュックを背負うのを確認して
「中二病の天才が作ったダンジョンだ。何を仕掛けているか分からないが攻略しよう」
と足を踏み出した。
遠野順一は頷くと
「ああ」
と小さく呟き後に続いた。
杉村翔も軽い感じで
「戻りようもないからね」
アハハと笑って進んだ。
岡崎信二はフゥと息を吐き出しながら
「それにサイバー警察局長が作ったものらしいし、幸いダンジョンスキーの人もIT系の人間も揃っているのでその両方でその中二病天才さんと同じ思考になると信じたいですね」
と脱力しながらぼやいた。
はぁ~と深い溜息を零して一歩後ろからとぼとぼと歩く岡崎信二に愛は目を向けると
「岡崎くん、大丈夫。大丈夫。絶対に辿り着けるわ」
と芳乃の背中を見つめながら彼の背を軽く叩き進んだ。
その彼らの前に直ぐに分岐が訪れた。左右と直進の3ルートである。
どのルートが正解か。




