表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

揺らぐ心

 お茶会の日。

 鏡の前で姿を整えるわたしの心は、どうにも落ち着かなかった。

 前回の街歩きが失敗に終わったせいか、どこか胸が重い。


 侯爵家の庭園に通されると、季節の花々が静かに揺れていた。

 その中心に、レオンハルト様が穏やかな笑顔で立っていた。


「ようこそお越しくださいました、アンネリーゼ様」

「本日はお招きいただきありがとうございます」


 形式ばった挨拶を交わし、席につく。テーブルには色鮮やかな菓子と香り高い茶が並んでいた。

 けれど、彼の前では何を話していいか分からず、匙を持つ手が少し強張ってしまう。



 沈黙を破ったのは、彼の柔らかな声だった。


「先日、寄付をしている教会から手紙が届いたのです。孤児の子どもたちから」


 驚いて顔を上げると、彼の瞳がほんの少し輝きを増したように見えた。


「拙い字でしたが、とても一生懸命に書いてくれていて……本当に嬉しかった」

「まあ……素敵なお話ですわね」


 心の底からそう思った。彼の笑みには、見栄も誇示もない。ただまっすぐな喜びだけが宿っていた。


 ――この人なら。

 一瞬、胸の奥で囁きが響く。街で過ごす自分のことを、話してもいいのかもしれない。

 でも同時に恐ろしさが押し寄せる。

 もし彼を通じて噂が広がったら、家の評判にどれほどの迷惑をかけることか。


 唇が震えたが、結局は「本当に素晴らしいことですわ」としか言えなかった。




 お茶会がひと段落したあと、彼がそっと立ち上がる。


「少し、庭を歩きませんか」


 並んで歩くと、初夏の風が頬を撫でた。花の香りが漂う小径で、彼がわたしに視線を向ける。


「アンネリーゼ様……何かお悩みではありませんか?」


 心臓が跳ねる。どうして、気づいてしまうのだろう。

 必死に微笑みを浮かべて答えた。


「読書に夢中になってしまって、少し寝不足なだけですの」


 彼は少しだけ目を細めた。けれど、追及することはしない。


「それなら、今日は早めにお帰りになった方がよいですね。無理はなさらぬよう」


 その優しさに、胸が締め付けられる。

 ――この方に惹かれてしまう。

 気づいた途端、足が止まりそうになった。




 帰りの馬車の中で、わたしはひとり戸惑っていた。

 家のために婚約したのだと自分に言い聞かせてきたのに。

 どうしてこんなにも、心が揺れてしまうのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ