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推定ライバル

「ミミ、一人にしてごめんね」


 晩餐はやはり別々だった。


 一日も早く連れて帰りたいと思った。





「乳母が来ているので、一人じゃありません。わたくしのことは心配しないで楽しんでくださいね」


「乳母が? 息子も来ているのか?」


 ミミの乳母の息子は超絶イケメンだ。


 おとぎ話の精霊王を思わせる明るい黄緑色の髪と瞳の、美しすぎて目が眩みそうな美丈夫だ。


 そもそもミミの乳母が大変美しい。


 息子と同じ色合いで、そっくりだ。




 乳母の夫は、スタリトレーガルの隣国だったカルーリア王の甥っ子だ。


 ミミが帝国に連れ去られた後、帝国とは戦闘状態になかったカルーリア王の助力でカルーリア人として帝国に入国し、ミミの世話をしたいと申し出た乳母は、2年ほどミミに付いた後、国に帰されたそうだ。


 僕は幼すぎてその頃の記憶はない。


 僕が覚えているのは、国に帰されたあとも数年に一度、ミミに会いに来るようになってからだ。



 カルーリアはその後、平和的統合といって、攻め滅ぼされたわけでもないのに自ら帝国の一部となった。

 カルーリア国籍をもらっていた乳母はスタリトレーガル国籍を隠してミミに会いに来れるのだ。



 姉は乳母を「精霊王の妻、ティターニアのごとき美しさ」だと言って歓迎しているが、僕はその乳母がミミを連れ去ろうとする魔女に見えていた。


 そのくらい、なにやら神秘的な美女だ。


 ミミがすごく懐いていることもあって、魔女がくるとミミが連れ去られる夢にうなされた。


 魔女は夫と共に訪ねてくる時と、息子と共に訪ねてくる時がある。


 姉がいた時は姉の采配、嫁いでからは祖母の采配で、非公式の面会なので僕は夫の方はみたことがない。


 息子の方は堅物の女官がボーッとなるぐらい美しい青年(当時)とのことで、恥を偲んでこっそり覗きに行った。


 僕より年上で姉より年下に見えるその美丈夫は、年を重ねるごとにますます妖艶な魅力を増しているように見えた。


 仮にミミが捕虜になっていなければ、魔女の息子がミミのお相手だったのではないかと思えてならない。


 並んで立てば絵になりそうだ。


 魔女は、本国では侯爵の妻で、息子の方は次期侯爵だ。


 政治派閥は、夫人がミミの乳母に任命されたことからも分かるように正妃派だ。


 姫のお相手にはいい感じじゃないか?


 もし帝国とスタリトレーガルが和平を結び、ミミが国に帰されることになったら......


 そんなことが頭に浮かぶと、不安で眠れなくなるから、僕は密かに冷戦状態が続くことを望んでいたりする。



「よく分かりましたね?」


「息子は結婚したの?」


「そんな話は出なかったので、まだだと思います」 


 質問の意図がわからないミミは、戸惑いながらも知っていることを教えてくれた。


 僕がミミを独占したいことは知っていても、ヤキモチを妬いているとは思いつかないのかな?


 にぶいぞ、ミミ!



「ふむ。僕もあとであいさつに行こうかな」


「殿下、そんなことして、大丈夫なのですか?」


 帝国の皇太子が、冷戦中の敵国侯爵令息と接触するなんて危ないと思ったのか、ミミは心配そうな顔をしながら、ドアの前まで送ってくれた。



「君を帝都から出して地方に呼び寄せた姉さまよりマシだろう?」


「それもそうですね......」


 ミミは自分のために危険なリスクを取った姉を思い浮かべて顔を曇らせた。


 王の許可は取ってあっただろうけれど、だからといって現地の臣下たちが非難しないとは限らないのだ。


 また余計なことを言ってしまったかもしれない。



「チュッ」


 僕はミミを励ますように額にキスを落として、晩餐へ向かった。


 その夜は、公式的な僕の歓迎会で、周辺地域の有力者との晩餐の後に小さな夜会が催された。


 夜会には、僕の側近になりたい令息たちと僕の妃になりたい令嬢たちが押し寄せ、非常に賑やかで華やかな会となった。


 ミミを手放してくれた姉の顔を立てて、その夜は望まれるままに多くの令嬢と踊り、望まれるままに多くの令息と談話した。


 そろそろ本格的にミミを妻に迎える準備を始めなければいけないなと思った。


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