妃選び
「イライジャ、あなた、ミミがいると他の子をみないでしょ?」
「ミミがいるのに他の子なんて見る必要ないでしょう?」
姉は単に自分が心細いからミミを呼んだだけではなかったようだった。
ミミがいなくなってから、僕の妃選びが本格化したことと関係があるだろう。
「わかっているでしょう? ミミ以外なら誰でもアリまであるわ」
「ミミには罪はないでしょう?」
スタリトレーガルはダメだ、という意味だ。
敗戦調停中に自国の王と王女もろとも敵陣を爆撃した道義に反しまくった国だ。
まだ盤石とは言えない新帝国で、強引に進めるべき縁談ではないことは分かっている。
「不遇な姫に同情する人はいるかも知れないけれど、皇室にスタリトレーガルの血が入ることに対する国民の嫌悪感はどうしようもないわ」
「身分なんてどうにでもなるでしょう? ミミをみたことがある人なんて限られているんだから」
ミミは捕虜なので、表に出たことはない。
顔を知っているのは極限られた人間だけだ。
ミミが自分の生まれの悪さに傷つくかもしれないから、これまで口に出したことはなかったけれど、妃にする前に身分替えをしなければならないだろうとは思っていた。
「それでもミミ以外の子を全く検討しないというのはダメよ。私がここで預かっている間にミミの新しい身分は手配しておくから、卒業してからまたいらっしゃい」
「イヤです。ミミが帰らないなら、僕も帰りません」
現在、学園は新領主の令嬢となった亡国の王女たちや各地の権力者の娘たちであふれかえっている。
婚約が決まっている子もいなくはないが、僕の妃狙いの子が多い。
中にはズルい手を使ってくることもあり、一瞬たりとも気が抜けない。
癒しが欲しい。
安心して安らげる時間が欲しい。
僕はミミに飢えていた。
飢えに飢えて、もう耐えられそうにないから、迎えに来たのだ。
「学園には、よさそうな子はいないの?」
「姉上は、学園に良い方はいたのですか?」
姉だって状況はあまり変わらなかっただろうと思う。
姉に嫁いでもらえば、帝国内の地位がグッと上がるのだから。
男は全員姉狙いでもおかしくない。
実際、姉は学園に友達がいないんじゃないかと心配になるほど、即刻帰宅し、ミミに癒しを求めていた。
僕の気持ちがわかるだろうに......
「話し相手になりそうな子が一人もいないということはないでしょう?」
「ミミとは全然比べものになりません」
姉は帝都内で暮らし続けられるお相手を熱心に探していたようだったし、学園に一人ぐらいはこの人でもいいかと思った相手がいたのかもしれない。
かくいう僕も学園にただ一人だけ、ポツポツと話をする令嬢がいる。
神殿で育った孤児で、神託の聖女と呼ばれている子だ。
平民だからか、話し方が砕けていて、話しやすい。
ミミは姉が嫁いだあと、敬語でしか話してくれなくなったから、久しぶりの友達感覚が嬉しくて、口が滑らかになることがあった。
「ふむ。他の子を完全に無視しているわけではないってことね? ちゃんと他の子にもチャンスを与えてるのなら、連れ帰ってもいいわ。但し、本人の承諾が必要よ」
姉もクドクドと念押しをしてから、ミミのいるところに案内してくれた。