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帝国の皇太子と敵国の捕虜

「最初とは、いつですか?」


 僕にはいつが最初か分からないほど幼い頃からミミはウチにいた。



「9年前よ。怪我を負ったスタリトレーガル王の身代わりに差し出されたの......」



 母の話を要約すると、こうだ。


 祖父目線では、スタリトレーガルの征服も順調だった。


 敵の王を拘束し、降伏を促す書状を送った。


 しかし、この後に問題が起きた。


 スタリトレーガルの正妃は、2才の王女を送りつけてきて、怪我を負った王の人質交換を願い出た。


 王女は第3子ながらも、正妃の唯一の子供で、王位継承順位第1位だった。



 祖父は突っぱねた。


 スタリトレーガル王は、怪我を負って動けない状態であったが、帝都への移送に問題はなかった。


 歩き始めの幼児を代わりに連れ帰る理由がなかった。


 帝国の基本方針は、敵の王族や権力者自身を捕虜として本国に送り、祖母に再教育させて最終的にはその土地の執政官に任命するというものだったから、幼児ではダメだというのもあった。


 成人王族か、宰相などの現役執政官を送るように交渉を始めた時に、奇襲爆撃が起こった。



 王と王女もろとも爆撃したのは側妃派だった。


 王と王女がいなければ、息子の第1王子に国王の座が転がってくることを狙っての攻撃だった。




 砲火の下、帝国軍はスタリトレーガルの捕虜たちの縄を解き、逃がしてやりながら撤退した。


 正妃の使者は王女を置いて逃げたので、仕方なく王女を連れ帰った。


 その後、帝国はスタリトレーガルに王女の生存を伝え、代わりの成人捕虜を送るように通達した。


 この時、祖父が連れ帰ったのがミミだ。




 祖母は、2才の幼児を連れ帰った祖父に驚き呆れ、愛想が尽きたと言って、積年の恨みをぶちまけた後、離縁を申し出て、宮殿を出た。


 軍行以外をすべて祖母に任せっきりだった祖父は、いつの間にか帝国と呼ばれるようになった自国を治める術を知らなかった。


 毎日のように祖母の家に通い、教えを請い、最終的には祖母が宮殿に戻ってくれたが、祖父は軍行に出るとは言い出せなくなった。



 その間、祖父は、ミミを扱いきれず母に預けた。


 母は、暫定的な措置として、3才の息子と一緒に育てることにした。


 捕虜監獄は、成人、しかも高位貴族の帝国幹部教育機関であり、子育てができるような設備も人材もなかった。



 そして、妹が欲しかった姉がミミを鬼のように可愛がったことで、ミミは捕虜監獄に送られることなく、これまで僕たちと一緒に暮らして来た。


 どれだけの強運に恵まれれば、大帝国の皇族に家族のように育てられる捕虜がいるのか?


 ミミは激運の持ち主だと思う。




 それから、9年。

 ミミを溺愛していた姉がお嫁に行った。



 祖父は孫娘の結婚を機に帝位を退いて、父に譲位することにした。


 そして祖母とミミを連れて離宮に引っ越した。




「ミミ、お願いだから、本宮に戻ってよ」


「わたくしは捕虜です。自分の住まいを自分の意志で決めることはできません」


 監獄じゃないだけでも、かなりの厚遇だとも言っていた。


 だから、両親にかなりごねた。

 祖父母の前でもかなりごねた。


 姉がやっていたように、粘り強くごねて、ミミを本宮に戻してもらおうとした。


 しかし、両親も祖父母も折れてくれなかった。



「いずれお嫁に行くことがわかっていた姉さまと、いずれ本宮の主となる殿下では事情がちがいますでしょう?」


 ミミは姉のことは、「姉さま」と呼び続けていた。

 僕のことは、いくら頼んでも殿下呼びを崩してくれなかった。


 僕が離宮を訪ねて弱音を吐くと、いつものように慰めてはくれたが、決して一緒に本宮に戻ってはくれなかった。



 姉が嫁いでから、僕とミミは、兄と妹ではなく、帝国の皇太子と敵国の捕虜になった。


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