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姉がお嫁に行った

 愛情たっぷりにミミを気立ての穏やかな聞き上手に育てた姉は、僕が12才の時、祖父が併呑した亡国の王族に嫁いだ。


 現在は、帝国の東部を管轄する大領主だ。




 すんなり嫁に行ったわけではない。


 かなりゴネたし、かなり揉めた。


 姉は帝都に住み続けられそうな相手との縁談を探していたが、そんな贅沢が許されるような政況ではなかった。



 祖父は周辺国を次々に併呑して、一代で中堅国を大帝国に押し上げた。


 征服王、覇王、戦神などと渾名されている。


 ほとんど国に帰ることなく、次から次へと攻め落として行った。




 真に偉大だったのは祖母で、祖父が送りつけてくる捕虜と言う名の亡国の王族や権力者をうまく教育して、国へ送り返し、新領主に任命した。


 民にとっては、トップは同じで法や制度が変わるだけになるように配慮した。




 祖母は新領土の教育やインフラに大いに投資し、亡国民が帝国民になることで、より豊かな生活を享受できるようにして、反対勢力を抑え込んできた。


 それでも、まだまだ盤石ではない。


 姉は最終的には重要拠点の領主家に嫁いで、帝国の地固めに貢献することにしたのだ。




「イライジャ、ミミを頼むわね」


 姉は国を離れる瞬間までミミのことを気にかけていた。


 ミミも姉を送り出したあと、とても寂しそうにしていた。



「姉上はミミを連れて行きたいとかなりゴネたみたいだよ。私の学園が長期休暇に入ったら一緒に会いに行こう」


「殿下、わたくしは捕虜ですから、宮殿から出られません」

 

 ミミを励ましたくて言った言葉に衝撃の応えが返ってきた。


 ミミは、その時、初めて僕のことを「兄さま」ではなく、「殿下」と呼んだ。


 ミミは、姉のために兄妹ごっこに付き合っていたようだった。



「捕虜?」


「はい。スタリトレーガルです」

  

 驚いて言葉が出てこなくなった。


 ミミは、戦争捕虜だった。


 唖然となって固まった僕をなだめることはせず、淑女の礼をして、さっとその場を立ち去った。


 ハグもキスもない臣下みたいな挨拶だった。


 姉がいなくなった途端、すぐに他人のような態度をとられてしまったことが何よりもショックだった。


 しばらく、頭が真っ白になって、ボーッとしていた。


 頭と心を落ち着けたあと、ミミの居室を訪ねた時には、ミミは既にいなかった。





 大いに焦り、取り乱した僕が宮殿中を探し回っていたら、母が止めに来た。



「ジャジャ、落ち着きなさい。ミミは先代達と離宮で暮らすことになったのよ」


「お祖父様達と? ミミを追い出したのですか?」


 僕は焦りが募っていたのもあって、声を荒げて母に食って掛かった。



「ミミはもともと先代預かりなのよ。ミミ至上主義はレナだけじゃなくて、ジャジャもなのね?」


 母は眉間をグリグリと押さえながら諭すような話し方で答えた。


 姉ともこういうやり取りがあったのだろう。



「ミミがスタリトレーガルからの捕虜というのは、本当ですか?」


 スタリトレーガルは、祖父が世界統一の半ばで剣を収めるきっかけとなった中堅国だった。


 スタリトレーガルの軍行以降、祖父は帝国に戻り、祖母と共に内政と外交に専念していた。



「姉上は知っていたのですか?」


「知っていたわ、最初から」


 知らなかったのは僕だけのようだった。


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