最終話、僕の幸せ
「ミミに騙された! 学園祭は1ヶ月半も後じゃないか!」
「何が騙されたですか! とにかく計画通りにお見合いを進めるんですよ。礼儀正しく、ね」
「礼儀正しくするように徹底されないといけないのは、相手の方です!」
帝都に戻った後、父上と大喧嘩になって、僕に接するのは母上だけになった。
すべては遠方にいる姉上の計なのだけど、全てを僕に秘密にするように指示したのは父上だ。
ミミと引きはがさないと僕が出兵しなかっただろうとの読みは、多分あっている。
でも、ミミを行方不明にして僕を出兵させることまでもが計画の一部だったなんて、腹が立ってしょうがないんだ。
しかも、何?
僕がバカだから、父上のような執政路線ではなく、お爺様のような軍事路線を印象付けるため勝ち確の戦に出した?
余計なお世話だよ!
「わかっているんですか? どの地方の令嬢も魅力的だったが、ウマが合うのはマーガレット嬢だったというシナリオに則った行動をとらないと、嫉妬されたり嫌がらせを受けたりと苦労するのはミミなのですよ」
「下手にチャンスをやると、『わたくしも惜しかったのに』と思う令嬢が出るでしょう? 最初から希望なんて抱かせない方がいいんです」
姉上も姉上だ。
いまだに他の令嬢にもチャンスを与えた上で、最終的にミミを選んだって流れに固執してる。
「レナは陛下によく似ていて、あれこれ策を弄しないと気が済まないのよ。婚家がゲール家でよかったわ。東方はシンプルisベストでレナの策にはっきりノーと言ってくれるから」
「母上がダメって言えば、それで終わりでしょうに」
「わたくしのダメは強すぎるから、小事には使えないのよ」
僕がミミを連れ帰れなかったのは、カルーリア家とゲール家が姉上の策に乗らなかったからだ。
ごちゃごちゃした設定を覚えるのもイヤといった風で、「そちらの設定が終わったら呼んでくれ」って感じなんだ。
だから、僕は1ヶ月半もの間、あまたの令嬢たちとお見合いをしまくることになった。
***
「マーガレット嬢、ようこそ帝都へ」
「イライジャ殿下、お手数をおかけいたします」
ミミと僕の「出会い」は、姉の計画通り、クロイスの通う帝立学園の見学を案内するという名目で執り行われた。
初対面の設定なんだから、はじめはぎこちない様子を演出するように演技しろと言われていたんだけど、その心配はなかった。
着飾ったミミは鬼のような美しさで、僕はタジタジした。
ミミは捕虜だったからなのか、宮殿にいたころは、メイクをしたり、装飾品を付けたりすることがなかったし、着ているものもシンプルだった。
それでも愛らしくて僕は大好きだが、今の大富豪のお嬢様な外見のミミは見慣れなくてドギマギする。
正直言って、これが初対面だったら、ミミも他の令嬢たちと同じに見えていたかもしれない。
運命というのは不思議だ。
「ねぇ、ミミ、いつ宮殿に帰ってくるの?」
「結婚したら、でしょうか?」
その日以降、毎日のようにミミを帝都観光に連れ出している。
毎日のように敢えて新聞社に撮られて、僕が大笑いしている様子や、ミミが呆れてジト目をしている自然な僕たちの様子を帝国民に紹介しているのだ。
結論から言えば、この時になって僕はようやく姉の意図を理解した。
新聞社はこぞって他の令嬢たちと接していたころの僕の表情とミミといるときの僕の表情を「皇子の恋ビフォーアフター」と題して掲載している。
自分で言うのもこっぱずかしいが、そうやって比べてみると、ミミと一緒にいるときの僕は、なんとも楽しそうなのだ。
そうやってミミは「実力」で僕の妃の最有力候補であることがじわじわと浸透していった。
「いつ結婚してくれるの?」
「申し込まれてもいないのに?」
「えっ!?」
僕がミミとは何の確証もない関係になってしまったと理解した日から、実際にミミと結婚できるまでに2年かかった。
立太子したり、政務を開始したり、ミミの成人を待ったりだ。
僕は「ミミとの結婚」というニンジンをぶら下げられて、シャカリキに頑張った。
両親は僕の動かし方をよく知ってるよな。
でも、結論から言えば、それも悪くなかったよ。
ミミは帝都のゲール邸に滞在し、僕は2日と開けずに訪問したし、たくさんデートした。
ミミはずっと帝都にいたけど、宮殿の外に出たことがなかったから、いろんな場所に連れて行った。
祖父や父にはなかった「恋人」期間だ。
正確には僕はごり押しで結婚を前倒ししようとしていたんだけど、「陛下にいただいた「恋人」期間をありがたく享受させてもらいましょうよ」というミミの一言で、僕が手のひらを返したのだけどね。
ゲール邸に行くと、義弟のクロイスにバカバカ言われるのがちょっと腹が立つけど、なんだかだでミミを帝都に留め置くようにご両親を説得してくれたりと、一番応援してくれてるっぽいんだよな。
きっとそのうちそんな時代も懐かしく思えるようになるんだと思うな。
バージンロードを歩くミミが、僕の隣に並ぶまで、あと7歩。
今、最高に幸せだよ。




