ミミが家族の誰にも似ていないことにも気づいてしまった
「ミミはホームスクーリングよ」
ミミと一緒に通学する気満々だった僕は、母のその言葉に落胆を隠せなかった。
帝立学園に通うことは、皇族の義務だと思っていたし、実際に義務だ。
祖父も、父も、伯父たちも、姉も、通った道だ。
しかし、直系を離れたら、その限りではない。
伯父の娘たちにもホームスクーリングの子はいたから、ミミもそうなんだろうぐらいに思って諦めた。
しかし、同時に、ミミが家族の誰にも似ていないことにも気づいてしまった。
「ミミ、ただいま。チュッ」
「兄さま、おかえりなさい。チュッ」
僕も姉と同様に、学園から帰ったら、サッと着替えて、ミミを迎えに行くようになった。
僕が学園に通う前は、姉が帰ってくるまでずっと僕がミミを独占していた。
ずっと遊んでいたってわけじゃない。
一緒にマナーやダンスを学んだり、読み書きや計算を学んだりもした。
でも、学園に通うようになって、ミミを独占できるのは僕が帰宅してから姉が帰宅するまでのちょっとの間だけになったから、僕は姉さまよりもはるかに急いですっ飛んで行っていた。
そして帰宅すると直ぐにミミを迎えに来ていた姉の気持ちが僕にも分かるようになった。
ミミは、聞き上手だった。
正確に言うと、姉に「聞き上手」に躾けられていた。
優しく、おっとりと、僕の話に耳を傾けてくれた。
僕が憤っているときは、そっと手を握ってくれた。
僕が悲しんでいるときは、背中を撫でてくれた。
僕が嬉しいときは、一緒に喜んでくれた。
ミミは決して僕を否定しなかった。
必ず僕の味方だった。
僕たち皇族にとって、学園は決して気の抜けない場所だった。
女の子は皆、僕の妃になりたくて、男の子は皆、僕に認められたい。
イライジャ殿下は〇〇ちゃんが好きとか、△△ちゃんにキスしたとか、□□ちゃんに結婚を申し込んだとか、全く心当たりのないことを色々言われて傷ついた。
時には全く知らない子の家に遊びに行ったことになっていたりして、信じられる人が少なくなっていった。
「子どもはウソをつくことがあるから、初等科が一番つらかったと姉さまが言っていました」
「ミミもウソをつく?」
「追い詰められたら、つくかもしれません」
ミミは正直だ。
ミミだけが唯一の信じられる味方だった。
僕の家は急激に領土を拡大して、大帝国になったばかりだったので、皇太子夫妻の両親は2人ともお忙しく、子供達だけで過ごす時間が長かった。
お二人はお二人なりに出来る限り頻繁に家族揃って食事が出来るように時間を工面してくれていた。
それでもなお、ゆっくり時間をとって悩みを聞いてもらえるような環境ではなかった。
ミミは姉にとっても、僕にとっても、心に抱えた物事を吐き出せる唯一の相手で、唯一の癒しだった。