スタリトレーガルの内戦
祖父のスタリトレーガル軍行の折、重傷のスタリトレーガル王の身代わりとして差し出されたのは、ミランダ姫と年齢、髪色、瞳の色が同じな偽の貴族令嬢だった。
それが、マーガレット・ゲールで、僕のミミだ。
スタリトレーガル王妃は捕らえられた王と同等の価値を持つ姫を暫定的な身代わりにするようにと重臣に勧められた。
第1王子や第2王子を送れば、国際的に彼らが後継者と認識されてしまう。
かと言って、結婚して12年目にようやく授かった娘を手放すのも嫌だった。
それで、ゲール家の娘を拉致して、祖父の陣に送った。
しかし、王は側妃派の奇襲爆撃で命を落とし、生きて戻れなかった。
正妃派は劣勢になった。
結局、正妃はゲール侯爵に娘を差し出し、ゲール侯爵の令嬢を取り戻すまで一連託生を誓った。
なんとか国をまとめて、帝国に降伏出来れば、ゲール侯爵の娘が帰ってくるし、ゲール侯爵も自分の娘を返してくれるだろうと、正妃は正妃なりに奮闘した。
姉がいうところの神託の外伝は、ゲール侯爵の娘としてスタリトレーガルの内戦を見て育ったミランダ姫視点の物語だった。
メインヒーローは、兄として共に育ったゲール小侯爵だ。
ゲール侯爵夫人は、大急ぎで娘を追いかけ、乳母と詐称して娘の世話をした。
帝国では捕虜が処刑されたことはない。
黙っていれば王の回復後、無事に帰れると信じて、沈黙を貫いたが、数年後、自分だけ送り返された。
「よく考えれば、わたくしのようにぬくぬくと育っていては、心を打つ物語にならないのではないかしら?」
「ミランダ姫もゲール家でぬくぬくと育ったから同じじゃないか?」
同じ様にぬくぬく育ったと言っても、ミランダ姫のゲール家は、汚い権力争いの渦中にいたし、暗い話ばかりだったろうとは思う。
でも、そんなことは僕の知ったことではない。
「ミミはミランダ姫のせいで今までずっと捕虜だったんだよ? 十分不幸な身の上じゃないか? 加えて帝国の王族と同じ厳しい教育を受けながら育っただろう?」
「ふふっ。宿題が多くて大変でしたわね」
ミミは明るい家庭で皆んなから可愛がられて不幸度は低いとは思う。
すべて姉の采配のおかげだ。
そして母の慧眼のおかげでもあった。
ミミの世話をする乳母の様子を見た母は、乳母がミミの実の母親だと直ぐに見抜いた。
その時点では、ミミは王と侯爵夫人の娘で、正妃が娘を生んだということがウソだったと推測した。
捕虜はスタリトレーガル王の子かもしれないが、母親は乳母に違いない、といった感じだ。
だから、乳母を直ぐに帰国させず、宮殿に留め置き、乳母の勢力権を確認することにした。
捕虜であるミミは外に出られないが、乳母には拘束がない。
影に見張らせること2年。
乳母は本国ではなくカルーリアと接触していることが判明した。
乳母の夫、ゲール侯爵はカルーリア王の甥っ子だったから、まったく違和感のない接触だ。
結局、乳母からは何も出ないと考え、乳母は国に帰した。
それからしばらくして、カルーリアが平和的統合で帝国領となった。
帝国側としては、平和的統合された国の領民も貴族も悪いようにはならないということを示したかったから、その第1歩となってくれた元カルーリア王には、征服された王たちよりも高い地位が与えられた。
乳母はカルーリアを経由してミミに会いに来れるようになった。
「カルーリアは、潮流を読むのがうまかったんだな」
「家風をみるに、不憫な親戚に絆されたわけではなさそうですものね」