悪役令嬢とラスボス
「悪役令嬢が王子の婚約者じゃないし、カレナ姫が生存してるし、王族まわりも結構かわっちゃってるから、そっち側にも転生者がいてシナリオを知ってるんだと思ったんですけどね。違うんですか?」
「悪役令嬢? 転生者? シナリオ?」
父が何を知っているのかわからないが、神殿は敵だ。
僕が父から何も聞いていないことを悟られてはいけない気がして、最大限に誤魔化した。
「うん。神託はストーリー仕立てなんだ。じゃなかった、なんです。転生者は、私みたいに別の世界から来た神託を知る存在で、転生モノならもう一人の転生者は悪役令嬢か、ラスボスのどっちかっていうのが鉄板なんですけど……」
「ラスボス?」
まったく意味がわからない。
「ゲーム用語すぎたかな? 学園編の悪役令嬢はメラニー・ドリグラーで、人魔大戦編のラスボスはミランダミラン・スタリトレーガルなんですけど......」
「メラニー・ドリグラー?」
ドリグラーの領主の娘が悪役で、ミミはラスボス?
旧ドリグラー国は、僕が生まれる前に帝国に吸収された富裕地域だ。
会ったことのない令嬢だし、ドリグラー家の令嬢が僕の妃候補として名前が挙がったことはない。
「あ、メラニーは既にシロだと判明してます。でも、王子との婚約が発生しなかったら、まだ15才なのに従者と駆け落ちしちゃって、それはそれで大騒動になったんですけど、神殿で掌握済みです」
「従者と駆け落ち……」
僕もいざとなったら駆け落ちしようと考えていたので、先を越されてしまった感がある。
「メラニーはとりあえず成人するまで修道院に入ってもらってます。ストーリーが始まってもないのにバッドエンドで悲惨ですよね。でも命の危険はないです」
「ミランダミラン姫の方は?」
僕にとってはそっちがより重要だ。
「それがわかんないから聞いたんですよ。神官たちに神託の話は全部秘密にしろって言われてるんですけど、ミランダミランの闇落ちを阻止して、人魔大戦を防がなきゃでしょ?」
「人魔大戦? 神託に魔族が登場するのか?」
いにしえの昔、人族が魔族の世界との扉を閉じた話はあるが、おとぎ話の世界だ。
神託ではミミがその扉を開くと預言されたのか?
「いや、そこは、闇落ちを防げばいいから。でも、そうすると隠しキャラのクロイス・ゲールが見られないんだよな。残念だけど、平和が一番だし」
「クロイス・ゲール? 東方のゲール家か? ミランダ姫との関係は?」
「ミランダミランの側近にして、忠臣にして、恋人ってとこかな?」
クロイス?
クロイスって誰だ?
乳母の息子は、カリオスだぞ?
ミミはバライカにいたときに会ったことがあるのか?
僕はあまりにも気になりすぎて、話を切り上げて大至急宮殿に戻った。
***
バーンっ!!
「ミミ!! クロイス・ゲールを知ってるか?」
「殿下? クロイスはママの3番目の子供ですよ?」
大慌てで勢いよく部屋のドアを開けた僕を見たミミは、不思議そうに首を傾げた。
ミミは乳母のことをママと呼んでいる。
姉が母のことをママと呼んだのを真似したのがそのままになったらしいが、義理の母という意味にもとれてなんか嫌だ。
「なんで呼び捨てなの? 会ったことあるの? 親しいの?」
「会ったことはありません。ママが沢山話してくれるので良く知った気がしてしまいますけれど……」
「なんてことだ! 君の本当のお相手はクロイスの方だったのか!?」
思わずガシッとつかんだミミの肩に力をかけすぎたようで、ミミは僕の手をポンポンと叩いて、「痛いです」と囁いた。
「あ、ごめん! でも、正直に答えて欲しいんだ。君にゲール家から縁談が来ていないか?」
「来ていませんよ。ママもわたくしたちの様子を見て、ちゃんとご理解くださっていますよ?」
ほんとか?
安心したら、のどが渇いた。
「なんか飲みたい」
「ふっ。お茶にしましょうか?」