中編1
シシラとシュバリアが学園の全生徒達と同様に体育館で待っていると、壇上に王太子ユーム・ジュンメウキが現れた。
「諸君! 集まってくれただろうか! 今回我らの学園である不正が発覚した。あってはならないことだ。そこで、このような場を設けさせてもらった。その不正を暴くために彼女にここに来てもらった。さあ、聖女アビス・アリゲイタ。今ここで真実を語ってくれ」
体育館で動揺が広がる。借りにも王太子の言うことだと影響力は大きい。良くも悪くも……というより、悪い影響しか起こらないとシシラもシュバリアも思っていた。
一人の少女がユームに導かれて壇上に立った。その少女こそ、アビス・アリゲイタ。シシラの義妹にして聖女だった。シシラは、涙を浮かべるアビスが王太子にエスコートされて壇上に立つ姿を見つめる。
「皆さん、今回の試験のことですが、私アビスと姉シシラの試験結果がいつもと逆になっていました。その原因は姉による試験結果の入れ替えによるものなのです」
涙ながらにアビスが訴えるのは、シシラが聖女の立場にいるアビスを妬み虐げ、今回試験結果を入れ替えるという暴挙に出たというのだ。つまり、全くのデタラメを学園中の生徒に伝えようとしたわけだ。
「なんてバカなことを……そもそもどうやって試験結果を入れ替えろというのだ……今回は厳重な監視があったから少し調べれば無理だと分かるのに……!」
シシラは嫌な予感がしていたが、アビスの本来の試験結果がひどいことがバレないために手の込んだ事を仕組んだだけだと分かって呆れ果てた。ただ、シュバリアは怒りに震えていた。何しろ、今もアビスがシシラのことを悪く言い続けるのだから。
「なんという茶番を……!」
「シュバリア様、何も言わないで」
「しかし!」
シシラは冷静だった。今更何を言われても動じることがないというのもあるが、この先の展開をうまく利用できるかもしれないと思ったのだ。
アビスの隣には王太子ユームと学園長ガニバケがいる。二人共重い立場の人間だ。その言葉の影響力は重い。誰か一人の将来を決定づけるほどに。
「私はお姉様に屈したのです。申し訳ありません!」
「いや、アビス嬢が謝ることではない。全ては無能なシシラ・アリゲイタの暴挙が悪いのだ。私は学園長という立場を持って、ここでシシラ・アリゲイタ公爵令嬢の退学を宣言する」
「姉でありながら聖女の妹アビスを虐げて試験結果を捻じ曲げるという罪は重い! シシラ・アリゲイタ、今日この時をもって貴様との婚約を破棄する! それと同じく国外追放を命じる! そして私はアビスと婚約を結ぶ! 聖女こそ私の婚約者にふさわしい!」
シシラの申し開きを聞くこともなく、学園長とユームはシシラを睨みながら宣言した。
王族からの追放宣言。それはシシラが望んでやまない言葉だった。学園はおろか国からも追放されるということは、シシラを縛るものがなくなるということだ。つまり、学園と公爵家で惨めな思いをしながら暮らさないで自由になれる。シシラが望んでいた状況そのものなのだ。
「お待ち下さい! 納得できません!」
「ッ!?」
シシラが喜びが顔に出そうになった直前、隣からシュバリアが抗議の声を上げた。そんな彼を学園長もユームも不愉快だと言わんばかりに睨む。
「学園を退学に国外追放など間違っている! こんな判断は早計すぎる! 取り消してくれ!」
「何だお前は? 学園長たる私と王太子殿下の決定に異を唱えるというのか?」
「お前は……シシラとよく一緒にいた男だな。よくもまあ、そんな無能に肩入れできるものだな」
学園長とユームに嘲られながらもシュバリアは納得できないと叫ぶ。シシラとアビスの本当の学力と試験結果の入れ替えが今回だけ行われなかったことを知っている立場ゆえにだ。
「シシラは無能ではない! そこの聖女が口にしたような悪事を犯すわけがないんだ!」
「シュバリア様……!」
「うるさいな、さてはお前もシシラとグルだったのだな!」
シュバリアは立場なども気にせずに学園長とユームに訴え続ける。しかし、肝心のシシラはこのままではシュバリアの立場が悪くなってしまうと危惧した。
「光魔法【メモリー】!」
シュバリアまで道連れになることを避けたかったシシラは、光魔法を体育館の天井に向かって放った。すると、怒り心頭の学園長の顔が天井に映し出された。
「「「「「ッッ!!??」」」」」
体育館にいる全員、つまり全生徒と全教師、王子と聖女とそして学園長すらも何が起こったのかと上を向いて騒然となった。誰もが動揺する中で、シシラとシュバリアだけは違った。
「皆様、落ち着いてください! あれは私の光魔法であり、過去の出来事を映し出す魔法です。何の危険もありませんから安心してください!」
シシラは大きな声で説明をした。体育館にいる生徒と教師の視線がシシラか体育館の天井に向かう。シシラの声は体育館にいる全員の耳に入ったようだ。
そして、天井に映る映像に変化が起こる。学園長の言動が再現された。
『シシラ・アリゲイタ! 貴様、どういうつもりだ!』
『? 仰る意味がわかりませんが?』
写った映像の学園長が怒鳴りシシラは分からないフリをする。
「こ、これはっ!?」
シシラの言っていること、何をしようとしているのかを理解した学園長本人は顔を青褪めた。これからの映像の先は自身の言葉だからだ。ただ、何も分かっていない王子はシシラに向かって怒鳴りつけた。
「シシラ! 何をやろうとしているのか知らないが往生際が悪いぞ! 今更お前が何をしようとも、」
『分からんのか! 今回の試験についてだ! 何故、妹君の筆記試験を入れ替えなかったのだ!?』
「……え?」
「「「「「はぁッッ!!??」」」」」
教師にあるまじき言葉を口にした映像、『何故、妹君の筆記試験を入れ替えなかった』と映像の学園長が言った。これは先程までに王子と聖女が叫んでいたこととは矛盾していた。
「「「「「何だこれはっ!? 筆記試験を入れ替えなかったって言っていたぞ! そもそも何で学園長が入れ替えなかったことに怒ってるんだ!?」」」」」
映像とはいえ学園長の言葉。その言葉が王子と聖女に比べれば軽いと思う者は多い。しかし、時と場所によれば状況は違う。例えば、場所が学園内で時が責任ある立場の時であるならば。
「ど、どういうことだ学園長!? アビスが訴えたことと違うじゃないか!」
「シ、シシラ・アリゲイタ!?」
「何よこれ!? お姉様は何をしたの!?」
体育館で動揺が広がっていく。しかし、これはまだ序の口だった。
『それでしたら今回は無理でした』
『それをどうにかするのが貴様の仕事だろう!? 上の指示には従わんか!』
「やめろぉぉぉぉぉっ!」
「「「「「ええーッッ!!??」」」」」
体育館は大騒ぎ。映像の中の学園長は言ったのだから『上の指示』と。上の指示とは何者なのか、映像は続いているのですぐに答えが出る。