序章4
大衆食堂で働き始めてからもう1ヶ月半が経った。
エレノアが働き始めてから閑古鳥が泣いていた食堂が嘘のように繁盛するようになった。
食事が美味しくなったことや代金が安いこともあるがそれ以上にエルが色んなところから客を引っ張ってきてくれてそこから人が人を呼んで今のように連日忙しい店に変わったのだからエルのコミュニケーション能力には脱帽するしかない。
これでしばらくは店も続いていくだろうし給料も出るだろうから金銭的な不安は消えた。
賄いも出るし食事に関しても困ることは無くなったがそれと同時に時間の余裕は日々なくなっていった。
日々の個人トレーニングやギルドでの鍛錬、それが終われば食堂での仕事が待っている。
仕事が終わり宿に帰り泥のように眠る。そんな日々がすぎた仕事終わりに個人トレーニングをしている公園に立ち寄った。特に理由があったわけではない。ただ、少し精神的に疲れてしまったのだろう。ベンチに座りぼーっとしていたところに突然声をかけられた。
「こんばんは。」
「!!!!」
突然の声かけに咄嗟に戦闘態勢に入る。
夜中の人気の無い公園で突然声をかけられたからではない。
声をかけられるまで全く気配すら察知できなかったからだ。
「・・・・・誰?」
最大の警戒で相手に話しかける。
「ああ、ごめんね。怪しいものでは無いの。私あそこの宿屋に泊まっていて毎日朝早くからここであなたがトレーニングしている姿を見ていてあなたとお話ししてみたいって思ってたの。」
(声色からして敵意はないようだけどフードで顔も隠れている上に素性もわからない。おまけに存在を認識しにくいから認識阻害魔法もかけて正体隠しを徹底している。一体何者なの・・?)
「あ、そっかフードかぶってたらそりゃ怪しいよね。」
そういうとフードをあげた。フードをあげた瞬間認識阻害魔法が切れたようでやっと気配が察知できるようになった。どうやら着ているローブ自体に魔法がかけられていたらしい。
フードから現れた素顔は息を呑むほどの美少女だった。
真っ黒なサラサラな髪に白い肌、大きな翡翠のような瞳。
そしてスタイルまで良い・・・。エレノアは思わず自らのまな板と見比べて微妙に苛立ちを感じた。
「改めてこんばんは!良ければ少しお話ししませんか?」
フードをかぶっていた時は感じなかったふんわりとした柔和な雰囲気に警戒が緩む。
「・・・別にいいけど・・」
「ほんとに?!よかったぁ・・断られたらどうしようかと思った・・。私の名前はリリウム。リリーって呼んで!」
「よろしくリリー。私はエレノア。冒険者の卵よ。」
「冒険者なの?!いいなぁ・・私も自由に冒険してみたいわ・・!」
目をキラキラさせながら向けられる視線が痛い。
「まだ冒険者じゃないけどね・・。」
「?そうなの?でも毎朝トレーニングしてるじゃない?」
「でもそれじゃ足りないみたい・・。冒険者になる方法自体はあるんだけどそれが使えないからもどかしいのよね・・。」
「そうなの?色々事情があるんだね・・。私もこういう夜中とかの時間じゃないと自由な時間ってないからエレノアが少し羨ましいよ。」
リリーの着ているローブの材質や魔法付与までされているところから察するに貴族以上のやんごとなき地位であることは間違いない。
お貴族様にも貴族なりの悩みもあるのだろう。
それから色んな話をしていくうちに最初の警戒心はとっくになくなっていた。
エレノアも歳の近い女の子と話すこと自体久しぶりだったのもあるがリリーの柔和な雰囲気が警戒心を解き心を開かせたのだろう。
それから2時間近く話し込んでいたがそろそろ体力も尽きてきて眠くなってきた。
「ごめん・・もう眠いしそろそろ私はいくね。」
「あっ!ごめんね!忙しいところを引き止めて長話しちゃって!」
「ううん、大丈夫。久しぶりにすごく楽しい時間だったわ。ありがとう。」
そう言って立ち去ろうとすると
「あっ、あの!」
「?どうかした?」
「明日もこのくらいの時間に会える?」
勇気を出して絞り出したかのような声でエレノアに語りかける。
少し驚いたがまた会いたいと言ってくれることが嬉しかった。
「もちろん!また明日ね!」
リリーもまたすごく嬉しそうな顔で手を振ってくれた。
また一人エレノアに友達が増えたのだった。




