序章
「やっと着いた!」
簡素な馬車から身を乗り出し、これから足を踏み入れる王都をキラキラとした眼差しで見つめるこの少女はエレノア。
14歳になり成人したことをきっかけに故郷を離れ、ダラス王国にて冒険者になるべくやってきた。
ダラス王国は小さく治安もあまり良くはないが故郷の村から一番近く冒険者協会がある国はここしか無かった。
「ここから私の冒険者生活が始まるのね・・・」
期待に胸を膨らませ王都の門へと歩き出す。
やる気のなさそうな門番に軽い持ち物検査を受け、王都の中へ入るとそこそこの活気がある通りに出た。
「人がいっぱいいるし見たことも無いものが沢山売ってるわね・・。」
大都市から比べれば大したことはないが、生まれてから小さな村から出たことがなかったエレノアには全てが新鮮に見えた。
「王都内を見て歩きたいとこだけど早く冒険者登録を済ませないと仕事がもらえないからね。」
成人するまでに貯めた資金も多くあるわけではない、生きるためにも資金調達のための仕事探しは急務だった。
足早に冒険者協会に向かって歩き出す。歩きながらふと路地の方に目を向けると奴隷達が商人たちに連れられていくのが見えた。
道ゆく人の話を聞くところによるとこの国では奴隷の売買が合法らしく他国の貴族達も買いに来るほど奴隷売買が盛んらしい。
奴隷売買が非合法な国が多い中、奴隷売買を目的にお忍びで貴族や王族までもがやってくるという事実に正義感の強いエレノアは無性に苛立ちを感じたが、国そのものが合法としている上に他国の貴族達を相手に商売をしている海千山千の奴隷商人達の組織が相手では矮小な自分などでは歯が立たないだろう。
「可哀想に・・・。」
力のない自分には小さく呟くことしかできなかった。
それよりも明日は我が身だ。今は自分の生活基盤を確保する事が先だ。
冒険者協会につくとすぐに受付の女性に声をかけた。
「冒険者登録をしたいのだけど。」
中年の女性はこちらをチラリと見てこう言った。
「ギルドの許可証明書は?」
証明書?なにそれ?
冒険者協会にくれば冒険者になれると思っていたエレノアは予想外の反応にあたふたしてしまった。
その反応を見た受付嬢はとてもめんどくさそうに説明をしてくれた。
「その反応を見るになにも知らずにきたって感じだね。冒険者ってのは戦闘職ギルドから発行される許可証がないと登録できないのさ。」
「なんでそんなめんどくさい制度になってるわけ?!」
食い気味に聞き返すとまたとてもめんどくさそうに説明してくれた。
「実力のない人間が無駄に死なないようにだよ。遺体の回収やら身元確認なんかも協会の仕事だからね。無駄に仕事増やされたくないのさ。その装備だと槍術士だろ?槍術士ギルドから許可証もらってからくるんだね小娘。」
この態度の悪さに無性に腹が立ったがここで言い合いしていても冒険者にはなれなそうだ。
「・・・ギルドはどこにあるの?」
「聞かなきゃわかんないのかい?ほら!」
ポイっと地図を渡されたがありがたみより怒りが沸いて仕方ない。
このまま話していると手が出てしまいそうだ。手を出せば冒険者になれなくなるかもしれない。
「・・どうもありがとう!!!」
地図を握りしめ中指を立てながら礼を言いその場を後にした。
悶々とした気分で槍術士ギルドを目指す。
「あー・・イライラする。やっぱり一発殴っとけばよかったかも。」
イライラしながら歩いているとだいぶ早足になっていたらしい、すぐにギルドに着いてしまった。
ギルドに入るとすぐ受付に行きギルド入会の手続きを済ませた。
冒険者協会では一悶着あったため身構えていたが案外すんなり終わった。
というより淡々とし過ぎている感じだ。どうやらこの国の人間は愛想というものを知らないらしい。
「入会後のことはギルド長から聞いてください。訓練場にいると思いますので。」
投げやりだなぁ・・・
少し不安になりつつも訓練場に入るとそこには顔やら体に傷跡だらけの大男がいた。
「誰だお前?ここはガキの遊び場じゃねぇぞ。」
子供扱いされたことに腹が立ったがこいつに認めさせなければ許可証がもらえない。
「さっきギルドに入団したエレノアよ。冒険者になりたいからさっさと許可証よこしなさい。」
するとギルド長はいきなり大笑いし始めた。
「ガハハハハハハ!こいつはおもしれぇ!久々にこんな傍若無人な小娘を見たぜ。」
急にとてつも無い殺気がこちらに向き、エレノアは咄嗟に武器を構える。
「殺気に反応できるくらいには鍛錬は積んでるようだな。いいぜ、俺に勝てたら今日中に許可証をくれてやるよ。」
次の瞬間、一瞬で間合いを詰められ横から槍で殴られた。
たまたまガードが間に合ったが吹っ飛ばされ壁に叩きつけられてしまった。
「う・・くそ・・ゲホッゲホッ・・。」
エレノアがうずくまっているとギルド長の男が首を傾げながら近づいてきた。
「・・・・・お前槍術士のスキル持ってないだろ?」
ギクリとしてなにも言えなくなってしまった。
「やっぱりな。実戦経験ある奴は今の攻撃をあんな受け方はしない。ましてやスキルがあればあの状態から反撃することも可能だった。」
「残念だがお前のような才能も実力もない奴を冒険者として送り出すわけにはいかん。諦めろ。」
ギルド長はくるりと背をむけ歩いて行った。
だめだ・・ここで少しでも爪痕を残さないと槍術士で冒険者にはなれない・・
「ああああああああっ!!!!!」
ギルド長の元まで走って後ろから槍を振り下ろすがノールックで防がれた上にカウンターで腹部に重い蹴りを入れられてしまった。
「ガハッ・・う・・うおぇぇぇぇぇ・・・」
腹部に蹴りをもらったおかげで昼に食べた物が全部出てしまった・・。
「諦めろ。無理だ。」
冷たくあしらわれ去って行ってしまった。
呆然と座り込んでいたところに見習いの槍術士たちがやってきた。
「邪魔だから雑魚はさっさと帰れよ」
「大口叩いた割にいくらなんでも弱すぎるだろ」
「もう諦めて田舎に帰んな」
大声で笑いながら自分の横を通り過ぎていく。
きっと最初から見ていたのだろう。無力感と屈辱が溢れてくる。
よろよろと起き上がり、そのまま宿まで帰り一晩中泣いてしまった。