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六.異世界の宿命

「えーという事で、お前達三人はしばらく練習は謹慎してもらう」


「そんな……」


 苦々しい顔で説明する先生に太郎と伊賀と西本はがっくりと肩を落とした。あの後、警察が来て大騒ぎになった。器物破壊で逮捕されるかも。辻の言葉に全員が真っ青になった。あれだけの騒ぎを起こしたんだ。処分もしかたないのか。うなだれる三人に先生がにっこりと笑った。

 

「というのは冗談だ。設置されていた監視カメラ。あれで試合中の意図しない結果というのがはっきりした。最近素行の悪い連中のたまり場になってたからな。警察にも散々事情徴収されたよ。お前達の事はきちんと説明しておいた。安心しろ」


 先生、ありがとう……太郎と伊賀は目を輝かせた。ったく驚かせんな。西本はため息をついて頭をかいた。


      ※

      

「んじゃなー、伊賀」


「うん、また明日」


 学校の帰り、伊賀と別れた太郎はぼんやりとあの戦いを思い出した。大男の急変。もしかして転生者かと疑ったが、やっぱ今回も俺の勘違いなのかなぁ。ふと前方に見慣れない人影が現れた。まさか、あれは……

 

「やあ、また会ったね。この間は楽しかったよ」


 あの大男がニコニコとして立っていた。なんで……慌てて太郎は振り返ったが、伊賀の姿はもう見えない。

 

「彼は今は関係ないよ。僕は君に興味がある。イカロスの転生者。君に自覚はないようだけど、どうしても試しておきたいことがあってね」


「転生者だと? お前はもしかして」


「そうだ、僕は……」


「隠れジャパニーズオタクだろ。最近多いんだよな、バスケができて、さわやかなくせに陰でコレクションをもってるやつ。やけに西本に雰囲気がにてるから怪しいと思ってたんだよな」


 太郎はあきれてため息をついた。巨瀬は呆気に取られて目を丸くした後、あははとおなかを抱えて笑った。


「面白いね。君、本当にあのイカロス? ここまでスペックダウンしている例もめずらしい。よっぽど異世界での傷が深かったんだね。本当に君には申し訳ない事をした」


「何言ってんだお前。まさかあの夢は本当の……」


「やっと気づいたようだね。そうだよ。君はイカロス。そして僕は君を追って現世にやってきたガルヴァンだ」

 

 太郎は呆気にとられた。やっぱ、こいつがガルヴァン。あの夢が本当であればすべての事に辻褄(つじつま)が合う。

 

「何が目的だ」


 震えを必死にこらえた太郎は大男を睨んだ。俺を追って現世に来た伊賀。俺のかわいい弟子をこいつから守ってやらないと。

 

 んーー。ガルヴァンが悩んだ風に首を傾げた。

 

「新しい力に目覚める為、かな」


「新しい力だと? 一体何のことだ。お前の好きにはさせねぇ。俺と勝負しろ。負けたらさっさと異世界に返りやがれ!!」


 勢いよく発破(はっぱ)をかけた事を太郎はすぐに後悔した。俺の馬鹿。こんな化け物に勝てるわけないじゃんか。


「いいよ、でもここじゃあやりにくいね。またリングが壊れて騒ぎになると困るし。サードステージに移行するよ。そこなら存分に()りあえる」


 ニヤリとした巨瀬の周りの空間がぐにゃりとひずんだ。なんだ? 身構えた太郎は何かに吸い込まれるのを感じて慌てた。あーと太郎は巨瀬に吸い込まれた。


      ※

      

(ここは……)


 意識を取り戻した太郎は周りを見渡した。荒れ果てた土地。薄暗い空。どんよりとした空気。目の前にあの巨大なバスケットコートが広がっていた。

 

 ガシャーン

 

 四方に金網が出現した。

 

「さあ、イカロス。ここなら気を遣う事はねぇ。存分に()りあおうぜ」

 

 角を生やして鬼のような顔をした巨大な獣がバスケットのユニフォームを着て立っていた。


(ガルヴァン……という事はここはDunk of Destinyの世界か? という事は)


 太郎は立ち上がって自分の体を調べた。長い両手、両足。長ぼそい顔。高い目線と引き締まった体。俺はイカロスに戻ったのか? 


「さあ、行くぜ、イカロス。全力開放 魔力スラッシャー!!」


 豪炎を帯びたボールがこちらに向かって飛んできた。危ない。太郎は瞬間的に叫んでいた。

 

「エレメンタル・ドライブーーーからのアルティメット・ダーーーンク!!」


 ボールを受け止めガルヴァンめがけて投げ返した。太郎はほっとした。このパターンはもう慣れた。これなら何とか俺でも戦える。ふん、片手でボールを跳ね返したガルヴァンは太郎を睨んだ。

 

「これじゃーらちが明かねえ。今こそ俺の新必殺技を見せる時だ」


(新必殺技? まさか)


 あの試合の風景が太郎の脳裏をよぎった。爆発的な勢いで伊賀を吹き飛ばしてリングを破壊したあのダンク。あれをやるつもりか? 太郎は身構えて様子を見守った。ガルヴァンの周りの空気が揺らいだ。徐々に渦を巻き始め、巨大な竜巻がその体を覆った。

 

(って、全然、違うよ。これは、もう自然災害レベルだよ)


 慌てて太郎は後ずさった。

 

「逃がさねえ、イカロス。受けてみろ、地獄滅風(じごくめっぷう) 雷轟破滅(らいごうはかい) トルネードダーンク!!」


 竜巻に巻き込まれた無数の岩石が太郎めがけて降りかかってきた。だから何度もいってんじゃん。これ、もうバスケじゃーねーって。太郎は泣きそうになって頭を抱えた。

 

(太郎、太郎や……)


 誰だ。太郎は慌てて周りを見渡した。この声はまさか。

 

(今こそ、新しい力に目覚める時じゃ。お前ならできる。この危機を乗り越えてみせろ)


 伝説の風間シュウが優しくこちらに微笑みかけていた。太郎は呆気にとられた。急に出てきて何言ってんのこの人。しゃべってる暇あったら助けてよね。

 

 どかーん、ぼかーん

 

 太郎の周りに岩石が降り注いだ。これ本当にバスケだよね。戦争じゃないよね。太郎はあたふたして逃げ回った。

 

「なさけねーな、イカロス。伝説の鳥人がこのざまか。第三章は伝説のガルヴァン様で決まりだな」


 ガハハと大笑いするガルヴァンを横目に太郎は嘆いた。第三章でも四章でも勝手にやってもいいから、早くこれをやめてくれー。

 

      ※

      

「まったく情けない。これでは第二章は絶望的だ」


 異世界モニターを眺めながらシュウはため息をついた。


「こうなったら最終手段だ」


 強制転送装置を厳かに前に置いて目をつむってた。

 

(まあ、これは言わんでもいいんじゃが、ここが唯一のわしの見せ場じゃし)

 

「ア、ブダ、ぱらぺったん、ぽーつのほいっ」


 威厳を込めて呪文を唱えた後、いつもとは違う色のボタンをぽちっと押した。

 

      ※


 どかーん、ぼかーん

 

 降り注ぐ岩石に太郎は限界に近づいていた。もう、俺、死ぬわ。振り落ちてくる巨大な岩をぼんやりと太郎は眺めた。


「太郎!! がんばれー」

 

 突然響いた聞きなれた声に驚いて振り返った。金網の向こうで伊賀が声を上げていた。どうしてあいつか? 

 

「太郎、まけるなー!!」


「がんばれー」


「死ぬ気で戦え、コノヤロー」


 辻、里奈、西本の姿も見えた。

 

「がんばれー太郎」


 先生や、部活の仲間たち。どうして彼らがここに?


「太郎、よけろー!!」


 西本の声に慌てて太郎はその場を離れた。ドカーンと岩石が地面に衝突して周囲が黒煙に包まれた。

 

「あれは、お前の仲間だな。あいつらも道づれにしてやる」


 煙の中からニヤニヤしたガルヴァンがゆっくりと出てきた。なんだって? 太郎は焦った。こんな攻撃、あいつらが受けたらひとたまりもない。

 

「いくぞ。全力 地獄滅風(じごくめっぷう) 雷轟破滅(らいごうはかい) トルネードダーンク!!」


 先ほどの数十倍もの竜巻がガルヴァンの体を覆った。無数の巨大な岩石が空中に浮かび上がった。


「やめろ!!」


 太郎は必死に叫んだ。暴風に阻まれて近づくことすらできない。くそっ。太郎は拳を握り締めた。何が鳥人だ。何が第二章の主人公だ。現世でも異世界でも、俺はまったく役にたってないじゃないか。

 

「キャー」


 岩石が衝突した里奈が血を流して倒れこんだ。

 

「太郎、助けてーー」


 声を上げた辻が吹き飛ばされて気を失った。

 

「やめてくれ!! シュウ 聞いてるだろ!! 俺は第二章の主人公を降りる。こんなバカげたことは今すぐやめるんだ」


 シュウの姿がぼんやりと前に浮かび上がった。

 

「それはできん。残念だがこれはお前に課せられた使命だ。異世界と現世は表裏一体。お前はその役割を全うする義務がある」


 ばかな。太郎は唖然とシュウを見つめた。

 

「それと気をつけろ。こちらでの死は現世での死を意味する。死ぬ前に強制転送すれば命は助かるが、わしはそのつもりはない」

 

 冷徹な顔をするシュウに太郎は背筋が凍った。ワーという声に慌てて金網の外に目をやった。大量に血を流して倒れる者もいる。まずい、このままじゃ。

 

「さあ、どうする? このまま見殺しにするか? それともこの危機を乗り越えるか? 決めるのはお前だ。だが、忘れるな、お前は鳥人。伝説のイカロスだという事を」


 シュウの姿が消えた。


「まて、まってくれー!!」


 太郎は大きな声を出してその場にうずくまった。


(これは夢だ。目が覚めれば俺はいつもの通り家でのんびりと寝ているはずだ。早く目覚めてくれ!!)


 太郎は必死に祈りながら、ワ―キャーと聞こえる声に耳をふさいでうずくまった。

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