五.破壊
大騒ぎする東中の様子を鬼塚達は呆然と見ていた。
「さすが、イカロスの弟子。いや、現世ではイカロスとして転生した者か」
リーゼントがボソリとつぶやいた。
「おい、龍崎。あれやるか」
決心したようにパンチがリーゼントに耳打ちした。
「ああそうだな。おい、巨瀬。セカンドステージに移行だ」
龍崎は大男に声をかけた。
「わかった、やっぱ今のままじゃきついね。なんとかなるかと思ったんだけどなあ」
巨瀬は残念そうに頭をかいた。
「嵐田君はそのままでいといてね。僕たちが戻ってこれなくなったら強制リセットをお願い」
わかったよ、あんま無茶すんなよ。嵐田はやれやれと頭をかいた。
※
「じゃあ、次も俺たちの攻撃だ」
西本がボールを龍崎に渡した。なかなかボールを返さない龍崎に西本が眉をひそめた。
「おい、さっさとこっちに渡せ」
「お前と一緒に戦っていた時を思い出したよ」
「はぁ、てめー何言ってんだ。トラッシュトークは俺には通用しないぜ」
西本は警戒して身構えた。龍崎が懐かしそうに西本を見た。
「バッドボーイズ。お前はその一員として俺と一緒にイカロスと戦った。だが所詮、脇役だ。本当の悪はあの人しかいない」
「イカロスだと……? もしかして、太郎の妄想の事か?」
同様した西本はわずかに龍崎の体が薄黒い影で覆われたような気がして目をこすった。どこかで見た事がある顔。バッドボーイズだと? 何かがおかしい。慌てて首を振った。
「ぐだぐだ言ってねぇで、早くボールをよこせ」
西本は龍崎からボールを奪った。構えながらも西本は不安に襲われた。太郎のあの夢の話。俺がDunk of Destinyのガルヴァンの転生者。んなことがあるわけない。だが、なぜこいつらがその事をしっている? ふと、西本はある事に気づいて目を細めた。
「はーん、わかったぜ。お前も、〝J・O〟だな」
はぁ? 龍崎が眉をひそめた。
「ジャパニーズ オタクってことだよ」
何を馬鹿な。動揺した龍崎を置き去りにして西本がインサイドに切り込んだ。へっ、トラッシュトークは俺の勝ちだな。
「いけー西本!!」
辻が大声を上げた。問題はこっからだ。西本は巨瀬を警戒してストップした。さっきの手はもう使えねえ。ここは安全にミドルで。その瞬間、巨大な壁が前面に立ちはだかったイメージが浮かんで西本は固まった。
(なんだ? 何かがこっちに倒れてくるような……)
猛烈な衝撃で西本はコートにたたきつけられた。
太郎は唖然と大男を見た。さっきまでの柔和な雰囲気はなくなり、何かどす黒い、悪意の塊のような気配を感じた。西本がカットインした後、大男が前に立ちはだかった。その後、黒いオーラのようなものが西本に覆いかぶさって、気づけばあいつがコートに倒れていた。一体何が起こった?
「おいおい、西本だっけか? 何、勝手にこけてんだ。大丈夫か」
嵐田があきれたように西本に声をかけた。
「うっせー、ちょっと滑っただけだ」
西本がふらふらになりながらも立ち上がった。太郎と伊賀は目を丸めて西本のもとに駆け寄った。
「大丈夫だ。すまん、俺のミスで」
「まて、西本。何か変だ。あいつは一歩も動いてねぇ。だがお前は何かに押しつぶされたように倒れた。どう考えてもおかしいぞ」
太郎の慌てた様子に西本がわずかに顔をゆがめて伊賀を見た。
「伊賀、お前はどう思う?」
「……確かに何か変だ。急に雰囲気が変わったような。だが、今の彼らを以前に見た事があるような気がする。なぜだろう」
「それは俺も感じた。結構有名なやつらなんだろうか」
あっ。太郎が声を上げた。
「どうした? 何かわかったのか?」
二人が慌てて太郎を見た。いや、何でもない。慌てて口を押える太郎に二人は眉をひそめたが、首を振って気を取り直した。
「次はディフェンスだ。とにかく一本、これを止めるぞ」
ポジションについた太郎は自分の想像に震えあがった。リーゼントは転生と言っていた。もしかして、こいつらは異世界のバッドボーイズ? 西本とやたらに似ているのもこれで納得がいく。という事はやはり俺はイカロスなのか? だが、こいつらがバッドボーイズだとすると……まずい。太郎は伊賀に目を向けた。
ポストに立つ巨瀬にボールが渡った。伊賀が背中に密着して手を挙げた。鬼のような形相の大男に太郎は震えあがった。もしかして、こいつがガルヴァンなんじゃ。
「太郎、あの泣き虫が出世したな。お前はイカロスの能力を受け継ぎ現世に転生した。だが、所詮あの男はテクニックのみ。本当の力というのを見せてやる」
「トラッシュトークはもう通じないぞ。正々堂々と勝負しろ!!」
伊賀は声を上げた。巨瀬はにやりと口をゆがめた。
「受けてみろ、俺の新必殺技を!!」
新必殺技……なんて中二病な……。呆気にとられた太郎は目を疑った。大男の体からどす黒いオーラが噴き出し、伊賀がコートの外に吹き飛ばされた。ジャンプして空中で回転した大男はボールを空高く掲げた。
「地獄滅風 雷轟破滅 トルネードダーンク!!」
バキバキバキー
リングにボールを叩きつけたその瞬間、ボードが真っ二つに破壊された。パンチが慌てて大男に駆け寄って背中をたたいた。