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四.エアウォーク

「表だ。じゃあ、先攻は俺達だな」


 コインをポケットにしまったリーゼントがボールを西本から取り上げた。


「ああ、いいぜ」


 西本はゆっくりと身構えながらも首を傾げた。


(こいつら、どこかで見た事がある気がする)


 リーゼントがサイドに上がったパンチにボールを回した。その前には太郎。パンチがポーンとボールを中に入れた。ハイポストに立つ大男が片手を伸ばしてキャッチした。後ろにつく伊賀が手をあげている。太郎は息を飲んで二人のマッチアップを見ながら、開始前の西本の言葉を思い出した。


      ~ 

      

「あの大男、あれには伊賀。お前がつけ」


「えぇ、伊賀がつくの? どちらかというとお前の方がいいんじゃ」


 太郎は慌てて反論した。

 

「俺じゃあいつを押さえられねぇ。唯一の可能性が伊賀、お前のジャンプ力だ。あの高さに対応できるのはそれしかねぇ。おれはリーゼントを押さえる。あいつが司令塔っぽいからな。太郎、お前はパンチにつけ」


 ゆっくりとパンチに顔を向けた太郎は背筋がぞっと凍った。眉毛ないじゃん。あの人。

 

「わかった」


 伊賀が厳しい目をしてうなずいた。さすがの伊賀もあの大男の異様な雰囲気に何かを感じているようだ。太郎はごくりと息を飲んだ。

 

      ~ 


 大男がボールを下げて伊賀に顔を近づけた。

 

「君、伊賀君っていうんだよね。アメリカから来たんだって? 懐かしいね、あっちは。僕も去年までいたんだ。君は育成リーグにいたっけ? いたら覚えてるはずなんだけどな」


 後ろから見ていた太郎は首を傾げた。ぺらぺらと伊賀に話しかける大男。伊賀にわずかな動揺が浮かんだように見えた。

 

「油断大敵だよ」


 大男が握ったボールを持ちあげシュート態勢に入った。まるで摩天楼のように高くまっすぐに上空に伸びる腕。なんて高い打点なんだ。太郎は呆気にとられた。その頂点から柔らかくボールが上空に放たれた。

 

 シュコーン

 

 大きなループを描いてボールはリングに吸い込まれた。さあ、二点先取だな。リーゼントが余裕な顔でつぶやいた。

 

「伊賀、どうした?」


 西本が何かを察して伊賀に寄った。

 

「思い出した。アメリカでの育成リーグ。僕が足をすくわれたあの試合で彼を見た気がする」


 西本が口をゆがめた。

 

「トラッシュトークか。伊賀、相手のいう事に惑わされるな。集中しろ。お前なら絶対にあいつを止めることができる」


「わかった……」


 トラッシュトーク。太郎は手に汗握った。よくわからないが、言葉で相手を惑わす事か。なんて姑息なやつら。しかし、俺にできる事はあるんだろうか……不安なまま、太郎もポジションについた。


「さーいくぜ!!」


 リーゼントがパンチにパスを出そうと横を向いたが西本がチェックした。


「そう、なんども簡単にださせるか」


 眉をひそめたリーゼントはパンチの逆方向にドリブルを仕掛けた。


 行かせるか。突然、西本は何か不穏な空気を感じて息をのんだ。なんだ、急に薄暗くなったような……伊賀が何かを叫ぶ声が聞こえた。


 どん

 

 巨大な壁にぶちあったような衝撃に西本は唖然として振り向いて目を見開いた。あの大男。


(しまった、ピック&ロールか)


 リーゼントがふわりとボールを浮かせた。リングにむかった大男がジャンプをして片手でボールをつかんだ。まさか、アリウープ……西本は唖然と眺めた。


「それ以上は好きにさせない」


 大男が掲げたボールをジャンプした伊賀が後ろから抑えた。


「なにぃ!?」


 リーゼントが唖然と声を上げた。まるでバレーボールのアタックのように伊賀はボールをコートの外にはじき出した。


(まじか……)


 太郎は呆気にとられた。あの高い打点をブロックしやがった。やっぱ伊賀はとんでもないやつだ。大男がため息をついた。

 

「ふうーやっぱ君はすごいね。さすがイカロスの弟子だけある」


「イカロス……?」


 伊賀は眉をひそめた。西本が駆け寄ってきた。

 

「ナイスブロック、伊賀。すまねぇ、お前のスクリーンの声掛け、聞き取れなった。今度は気を付ける。次は俺たちの番だ。太郎、気を引き締めろよ」


 ああ、と返事をした太郎は何か新鮮な気持ちになった。伊賀のプレーも見事だが、それを素直にたたえる西本。試合ってのもいいもんだな、俺もがんばらねぇと。ふと、首をかしげる伊賀に気づいた。何かまた言われたのか?

 

「伊賀、どうした? またトラッシュ何とかか? 気にすんなよ。いつも通りいこうぜ」


「わかった、太郎。ありがとう」


 ニコリとわらう伊賀に太郎は安心してポジションについた。

 

「いくぞ!!」


 ハーフラインでボールを受け取った西本は声を上げて、前で守るリーゼントをじっと見た。さっきのジャンプで伊賀を相当警戒しているはず。となれば。西本は体制を低くしてボールを目まぐるしく足元で交差させた。

 

(伊賀だけじゃねぇ。東山にはこの西本様がいるってのを見せつけてやる)

  

 クロスオーバードライブ

 

 0度のポジションで見守っていた太郎は、息もつかせぬ西本のドリブルに息を飲んだが、ふと違和感を感じた。守るリーゼントの様子。どこかで見た事があるような。


「あっ」


 太郎は声をあげた。西本と伊賀の1オン1。あの時の伊賀の様子に似ている。


 西本の動きをリーゼントは冷静に見つめていた。


(右、左、そして、右だ!!)


 リーゼントは素早く西本の進路をふさいだ。


(馬鹿が、お前のパターンは攻略済みなんだよ)


 しかし、その後の西本の動きにリーゼントは呆気にとられた。くるりと背を向けてターンした西本はリーゼントの逆方向にするりと抜けた。

 

 スピンムーブ

 

 まさかこんな動きは聞いていないぞ。


「ヘルプだ!!」


 呆気にとられたリーゼントは大男に声を上げた。西本はリングを見上げた。


(いつまでも昔の俺だと思うなよ)


 大男が手を挙げて迫ってきた。西本はちらりと伊賀を見た。

 

(いけ、伊賀。見せつけてやれ)


 切り込みながら西本はふわりとボールを浮かせた。タイミングをずらされた大男は首を上げてボールを見送った。ウィングから駆け込んできた伊賀が力強く踏み空高く飛び上がった。

 

 鳥人

 

 その場の全員が息を飲んでその姿を見上げた。歩くように空中でボールを受け取った伊賀はそのままリングにたたきつけた。しばらくぶら下がっていた伊賀がゆっくりと手を放して着地した。

 

 キャーと里奈が大きな声を上げた。伊賀、サイコー。辻が飛び跳ねて喜んだ。やったぜ、伊賀!! 太郎も伊賀の元に駆け寄ってハイタッチをした。呆れた顔をして西本が近づいてきた。

 

「ちょっと高すぎたかと思ったが、たいしたやつだ。あれに届くなんてな」


「西本君もナイスパス。ドンピシャだったね」


 嬉しそうに伊賀は笑った。ああ、西本は照れくさそうに頭をかいた。俺はこのチームで戦えてほんとによかった。太郎は今、自分がここに立っているのが信じられないくらいにうれしかった。

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