三.まさか鬼塚と試合!? 俺は出ないけどな
「まさか、鬼塚と試合とは……まあ俺は出ないから関係ないけど」
いつものように教室で寝ぼけながら、太郎は強面の生徒が集まる鬼塚中学を思い出した。地域でも評判のワルがあつまる中学。特にバスケ部は不良のたまり場という噂も。有望な新人って、まともな試合になるのか? 隣に座る伊賀をちらりと見た。西本のラフプレーに抗う伊賀。またあのような事態にならないだろうか。
「でも、鬼塚なんて先生も無茶苦茶だなー。どうせ全員、西本みたいなやつだろーなぁ。それはそれで面白いか」
くくくと笑った太郎に伊賀はあきれた顔をした。
「太郎、そういう言い方は良くないって。西本君はあれで根はいい人なんだから」
「あれでって、おまえも十分ひどい言い方だぜ」
しまったと口を押えた伊賀に太郎はあははと笑った。
「きりーっつ」
げっ、授業だ。はーあーと欠伸をして眠そうに太郎は立ち上がった。
※
キーンコーン・カーンコーン
「また明日ー」
放課後。やっと終わった授業に太郎は心が躍った。今日は午後練は休み。〝ゼロから始める異世界生活〟をゆっくりと4Kテレビで楽しもう。
「ねぇねぇ、二人とも。これから時間ある?」
意気揚々と帰る準備をしていた太郎と、残念そうに鞄に教科書を詰め込む伊賀に里奈が声をかけてきた。
「なんだ、里奈。俺はゼロか……帰って勉強という重要な任務が」
「公園でみんなでバスケやらない? 試合も近い事だし、練習した方がいいんじゃない?」
里奈の提案に伊賀が目を輝かして太郎の腕を引いた。
「やろう太郎。鬼塚中学との試合。万全の準備をしないと」
そうこなくっちゃ。じゃあ出発―!! 唖然とする太郎を伊賀は強引に引っ張って教室を連れ出した。
※
「げっ西本。それに辻も。お前らなんでここに?」
公園に到着後、二人にばったりあった太郎は仰天した。
「それはこっちのセリフだ。なんでお前がここに?」
太郎の後ろに立つ伊賀に気づいた西本はふーんとうなずいた。
「まあ、伊賀の性格からすれば休んじゃられねーか。二面ある。お前らはあっちでやっとけよ」
「西本、はやく1オン1やるぞー。伊賀ー、また、後でやろーな」
辻がニコニコと伊賀に手をふった。けっ、西本がつぶやいて、辻をあっさり抜き去ってシュートを決めた。なんだかんだ言っても仲いいな、あいつら。太郎は安心してもう片方のゴールに向かった。
(あれ、既に誰かいるじゃんか)
突っ立つ伊賀と里奈に背後から太郎は近づいて驚いた。金槌のようなリーゼント頭と、パンチパーマの男たちが、がやがやと雑談をしていた。その異様な姿に太郎は思わず噴き出した。
(何だあれ、昭和かよ。でもあの制服どっかで……)
あっと太郎は声を上げた。まさか鬼塚中学?
「なんだーてめーら。ここは俺達がつかってんだよ。消えな」
リーゼントが眉をひそめて唸った。
「バスケしてないならどいてください」
震える声で里奈が抗議した。はぁー? パンチパーマがこっちに歩いてきた。いやいや、やばいだろ、これ。太郎は腰が引けて後ずさった。
「ゴーアウェイ!! ここはバスケットをする場所だ。関係ないやつはさっさと失せろ」
突然に大声を出した伊賀を太郎は呆然と見つめた。バスケの事になると熱くなるタイプなのね、伊賀君。でも、その日本語、一体どこでおぼえた? もう少し言い方ってもんがあるでしょうに……。
「はぁ? なんだてめぇ。外人か? 調子乗ってんじゃねーぞ」
「おい、おめーら何してんだ?」
振り返ると、西本と辻が眉をひそめて立っていた。
(西本君、そして、辻君も……)
これ程二人の存在を頼もしく思ったことがかつてあっただろうか。太郎は輝く眼で二人を見守った。西本が驚いた顔をした。
「まさか、おまら、鬼塚か?」
「はあ? だったらなんだ。いや、もしかして、東山? てっことはその外人が……」
リーゼントが眉をひそめてパンチと何かをひそひそと話し出した。ってことはあの色白とこのガラの悪そうなやつが……リーゼントが興味深そうにこちらを見てニヤついた。太郎は何か嫌な予感がした。もしかして、俺の事を話している? リーゼントがゆっくりと近づいてきた。
「お前らと試合を組んでるのは知ってるな。俺らがその相手だ」
こいつらが? 太郎は目を見張った。どう見てもバスケをするようには見えない。西本が呆れたようにつぶやいた。
「はあ? おめーらが相手だと? 鬼塚も堕ちるとこまで堕ちたな。試合をやるまでもねー。もしかして、お前らが有望な新人ってやつか? まったくとんだニューフェースだな」
「転生してもまったくかわらんな、お前は」
リーゼントが何故か懐かしそうにつぶやいた? あぁ? 西本が眉をひそめた。
(転生……っていったのか、今?)
太郎は思わぬ言葉に耳を疑った。どう見てもそっちの人間じゃない。もしかして、西本と同じ、隠れジャパニーズオタク? リーゼントがパンチと一緒にこちらを見て大笑いしている。西本が苛ついて声を上げた。
「なに、ごちゃごちゃしゃべってんだ。何なら今すぐ勝負してやろうか? 試合をする手間が省けてその方が楽だろ?」
「ああ、そうだな」
リーゼントが気を取り直したようにこちらを向いた。
「スリーオンスリーだ。お前と、外人と、色白。その三人と相手をしてやる」
太郎は呆気にとられた。色白って俺の事か?。なんで太郎なんだ。辻がほほを膨らませてつぶやいた。西本がうなずいた。
「……いいだろう、お前らは誰が相手だ?」
まずは俺、リーゼントが胸に手を当てた。そして、こいつ。パンチがニヤリと口をゆがめた。そして、後ろを向いて手招きした。
「ああ、僕かい? わかったよ。よろしく、皆さん。お手柔らかに」
すくりと立ち上がったその背丈に全員が圧倒された。2mは優に超えている。がっちりとした体格と長い手足。なんだこの大男は? 太郎は唖然とその姿を見上げた。
「太郎……大丈夫……だよね」
里奈が不安そうにつぶやいた。