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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し
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第九十六話:平和の終焉

 直哉は顔を歪め、青筋を浮かべる。冬樹には「ましろちゃん」が誰なのか分からず、ただその白い髪に寒気を覚えていた。


「もう行くねェ。バイバイィ」


 孤高は軽々と菜摘を担ぎ上げた。


「置いてけ…狐ババア…!」


 直哉の怒声は震えていた。怒りか、焦りか、もはや自分でも分からない。


「古い時代の従者はァ、いィらないのォ。でも…目障りなのォ」


 孤高の口元が不気味な弧を描く。


「お眠りィ…創造神様の思し召しのままにィ」


 孤高がスッと直哉の頬に触れると、直哉は抵抗する間もなく瞳を閉じ、力なく崩れ落ちた。


 冬樹の足がすくみ、声にならない悲鳴が喉に引っかかる。


「待てッ!!こっちを見ろ!!ここにいるだろうが!!」


 冬樹は必死に叫び、手を伸ばす。しかし、その手は空を切るばかりだった。孤高は菜摘と直哉の二人を抱え、歩き去る。


「ゴミ掃除ィ、ゴミ掃除ィ ♪ 新しい時代にィ、冬樹ちゃんはいないのォ ♪」


 去り際に残した歌のような声が、耳に焼きつく。


 孤高は視界から掻き消えた。


「っ…あああああああああああああッ!!」


 冬樹は膝から崩れ落ち、拳で床を叩く。

 目の前が滲む。何もできなかった。16年前と同じ…。自分だけが、また生き残った。


『また、俺だけだ…』

 その言葉が脳内で何度も反響する。


「珠玉…様…?」

「兄様ッ!!」


 避難していた人々の元に、大斧が深々と突き刺さっていた。

 大きなクレーターができ、死の匂いが漂う。


「借りは返そう。感謝する」


 珠玉の左腕が…ない。

 和哉は目を見開き、呼吸が乱れた。


「借り…って…」

 震える声で問いかける。


「私の弟たちの良き友であってくれたこと。そして…憧れた人を殺させなかったことだ」


 珠玉の顔に浮かぶ、かすかな微笑。


「あれェ、死ななかったァ。まァ、いいかァ」


 突如響く孤高の声。

 背後を振り向けば、黒いローブに黄金の天秤。菜摘を片手に、もう片手で直哉を軽々と抱え上げている。


「はい、あげるゥ。」


 菜摘は無造作に投げ渡された。智春が慌てて影で受け止める。


「奏人様ッ!!」


 代わりに、奏人の身体が孤高の腕に収まる。


 必死に手を伸ばすが、届かない。指先が空を切る。


「バイバァーイ」


 この戦いは、癒しの魔女…そして奏人を奪われて終結した。


 癒しの夢と、珠玉の意地がぶつかった戦いは、孤高の介入で全てが崩れ去った。


 珠玉は左腕を失い、紅玉は重傷で生死を彷徨う。

 東京では信仰統制局が何者かに陥落させられ、開闢の魔女が行方不明。

 第一聖教会もまた、壊滅。


 死者・行方不明者の数は未だ不明。その殆どは…病院にいた一般人だった。

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