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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し
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第九十三話:質より量

「春馬、聞いてたか…?」


「知りませんよ…あんなの」


 暴風を見上げる人々の中に、春馬と菜摘の姿もあった。二人はただ、圧倒的な力のぶつかり合いに言葉を失っていた。


「アレには突っ込めねえか…」


 菜摘も春馬も魔法が使えない。故に、今の彼らにできるのは傍観することだけ。


「菜摘様!!」


 そのとき、和哉が駆け寄り声をかけた。少し息を切らしながらも、焦りよりも決意の色が強い。


「ここにいる人たちを避難させます。手伝ってください!」


 笹野と共に現れた和哉の姿に、二人は一瞬驚きつつもすぐ頷いた。今の自分たちにできる役割を理解したからだ。


「みんな、聞いてくれ!!我々がここにいては癒しの魔女様の邪魔になってしまう!動ける者は春馬様と菜摘様の誘導で外へ!動けない者は、癒しの魔女様の()()()である和哉様が運んでくださる!!」


 笹野は各階を駆け巡りながら、携帯でフロアマップに動けない者の位置をピン留めし、菜摘たちへと送信していった。


「菜摘…」


 智春の元へ多くの人々を連れてきた菜摘。開けた場所で和哉の補助に当たっていた智春と視線が交わると、周囲の空気が一瞬緊張した。


「バカが起きてなくて助かったな」


 菜摘の視線の先、智秋はまだ眠るように横たわっていた。


「ホントだな。兄さん、菜摘のこと大好きだからな」


 智春は吹き出すように笑い、緊張を溶かすように柔らかな表情を浮かべた。


「逆だろ」


 菜摘もまた、少し肩の力が抜けたように微笑んだ。


「ちょっ、バカ、和哉!!早い早い!お前の風で瀕死のオッサン達にトドメ刺すぞ!!」


 建物の方から、猛スピードで飛んでくる人の塊。


「ったく…慣れてても魔法何度も使うのは疲れるんだよなぁ!さっきから何度も何度も魔法使ってるのに、あいつの体力バケモノかよ!!」


 智春は影を広げ、地面に叩きつけられる寸前の人々を吸い込むように受け止めた。


「おーい、動ける人!影から人出すの手伝ってくれ!」


 周囲と協力しながら、影の中から引き上げる作業を繰り返していく。


『すみません、風が言うこと聞かなくて…』


「分かってる!!多分お前の兄貴が真横で暴れてるからだろ!!ドンと来い!!」


 電話越しで申し訳なさそうに話す和哉。しかし、気にするなと笑い飛ばす智春の声はどこか頼もしかった。


「春馬、行くぞ」


「はい!!」


 春馬は人々の中に兄の姿を見つけた。直哉が起こした炎を纏う暴風によって、氷から解放されたのだろう。意識はなさそうだが、それでも春馬の胸に安堵が広がった。


「私は叡智ちゃんじゃないから、炎では人を傷つけちゃうんだよね」


 相変わらず、直哉と珠玉の激闘を傍観していた紅玉は顎に手を添え、ふっと笑った。


「はてさて、どこまで守れるかな…。紅玉、お前の力の見せ所だぞい」


 自分に言い聞かせるように呟き、目を閉じる。


「どぉぉぉりゃぁあ〜!!」


 大きく息を吸い込み、叫びながら両手を叩いた。

 珠玉と直哉のぶつかり合いのほぼ同時、凄まじい熱波と微細な水の粒が周囲を覆い尽くした。触れれば皮膚が焼け落ちそうなほどの高温だった。


「ひより…様…っ、アツッ!!」


 和哉は自身をドーム状に包む炎に気づき、呟く。

 恐る恐る触れれば、それはひよりのものではない炎。しばらくすると、空へ溶けるように消えていった。


「やっべー!これできる叡智ちゃんバケモノかよ。みんなを焦がさないように炎の温度下げたつもりだったのに普通に暑いし。当然火力下がるから脆いし」


 溶けた炎の外には、ケラケラと笑い転げる紅玉の姿があった。紅玉がドリーム状の炎で直哉と珠玉から発せられた魔法からみんなを守ってくれた。


「でもまぁ、おんなじ炎を使う魔女でも…質はあっちが上。私は量では勝ってる…はず」


 珠玉と直哉が戦う真横で、これだけ余裕を見せられる紅玉に周囲の人々は戦慄したが、それでも守ってくれたことに心から感謝した。


『和哉、今のって…紅玉様の?』


「そうですよ。それより、4階は避難完了。3階に降ります。」


『了解』



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