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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し
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第八十七話:家族の定義

「幼馴染同士の戦いだなんて…聞いてなかった。」


 それどころか、自身の兄の交友関係すら、ろくに分かっていなかった。


(…それも当然か)

 自分たち家族の話を周りにしないのと同様に、兄からも自分や冬樹の話しか聞いたことがなかった。どこまでも秘密主義。それは身内だろうと他人だろうと、分け隔てなく徹底されていた。


 ブーッ、ブーッ――

 ポケットで携帯が激しく振動する。そんな振動音で、和哉は我に返った。


『和哉、直哉のとこ急いでくれ!!珠玉がそっち行った!!』


 その声に、胸がぎゅっと締め付けられた。

 直哉の元へ向かっているのは、直哉の幼馴染で、かつて親しい人だったはずの人物。しかし、双方が自身の目的のためなら絶対に引かないだろう。


(本質は同じ…我が強い。だからこそ他者に舵を取らせないし、取らせたくもない。戦いは…避けられない)


『和哉?』


 携帯越しの菜摘の声は、心配で震えていた。


『和哉、頼む。あの人の夢は珠玉の下では叶わない。今の医療体制を維持するのは不可能だ。直哉だからこその“今”なんだよ…』


 菜摘の弱々しい声に、和哉はキュッと口を結び、拳を強く握りしめた。


「分かっています…兄が他人の下につくなんて、見ていられません」


 努力は報われる。実るもの。

 それを側で見てきた和哉にとって、兄が負ける――それは努力の敗北を意味していた。

(凡才の自分だからこそ、認めるわけにはいかない)


「見逃しはします。ですが、勝つのは癒しの魔女です」


 和哉の瞳の奥が燃えるように熱を帯びる。それを見て、双子の片割れは「は…?」と意味がわからない顔をした。


「お前にも分かるだろ!力の差が!兄様の魔法において右に出る者はいない!魔女最強の一角だぞ!!」


 その言葉に、和哉は思わず吹き出した。かすかな笑い声に、胸の奥に詰まっていた悔しさと緊張が解けていく。

 同時に、ひよりに申し訳ないという気持ちも込み上げた。


「魔女に仕える者なら分かるはずです。信じるものが全て。信仰を捨てるくらいならば、この身が朽ちることも厭わない――」


「それと同じです」

 和哉は言い切り、ひよりを想いながら歩き始めた。

 ひよりという信仰対象に命を懸けるのは当たり前だ。それと同時に、兄の夢にも命を懸けたくなった。

(これが兄やひよりが嫌う魔女社会的な考え方…だとしても)

 罪悪感が胸をかすめる。


「それでも、ひより様なら…兄を助けてと言ってくださるはずです」


 ひよりと兄――普段は冷たいはずのひよりが、兄にだけは柔らかな表情を見せる。その光景が脳裏に蘇る。

 普段は話し続ける兄が、ひよりの話をじっと聞き役に徹する姿。

 ひよりも、前は全く話さなかったのに、兄には色々と話すようになった。

 その二人に飲み物やケーキを差し入れる自分。

 気づけば奏人を筆頭に、ぞろぞろと人が集まってくる光景――。


(…思い出しただけで、胸が暖かい)


「あぁーっ!もう分かった!!分かった!!」


 そんな記憶に浸る和哉の後ろから、いきなり腕を掴む手があった。


「手伝ってやる!だから、兄さん運ぶの手伝ってくれよ…」


 振り返れば双子の片割れだった。背中に背負われたもう片方が兄らしい。

(…半信半疑だが、いいか)


 和哉が魔法で双子の兄を浮かせると、弟の方は無言で並んで歩き始めた。


「父様の遺言だ」


 唐突に弟が口を開き、和哉は小さく首を傾げる。


「家族に勝る宝はない」


 その言葉に、和哉の瞳がわずかに揺れた。


「家出した愚弟だろうと、兄様が――()()()()()()()()だろうと。家族だろ。お前もな」


 照れくさそうに言う双子の弟。その姿に、思わずクスリと笑ってしまう。

(相当、人間臭い奴だな)


「家族の定義ガバガバじゃないですか?」


「うっせえ!!!そこ突っ込むタイミングじゃないだろ!」


 そのやり取りに、張り詰めていた心が少し緩んだ。


「そんなガバガバ定義で、実の兄に刃を向けられるんですか?」


「無理に決まってるだろ!あくまでサポートだっつーの!!」


 焦ったように言う弟に、和哉は小さく笑いながら来た道を戻り始めた。

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