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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し
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第八十五話:惨めな姿

 気を失った双子の片割れに、動揺するもう片方。

 僕は、和哉くんの魔法で運ばれた。


 こんなにもかっこ悪く、生き残ってしまった。

 こんな惨めな様で、きっと直くんの所に連れて行かれる。


 どこまでも自分勝手な僕は、悔しさと情けなさに押し潰されながら――

 気を失った。


「……起きたね。」


 次に目を覚ましたとき、やはりそこは病室のベッドの上だった。


「かっこわる」


 僕が気を失ったから、魔法も解けてしまっている。

 双子たちの標的は、また直くんに向かうだろう。


 もしここで死ねていたなら。

 全てに背を向けて、あたたかい闇の中で眠っていられたのかもしれないのに。


「冬樹」


 直くんの声がした。

 その声は、どこか懐かしいほど優しい響きで、僕の胸を締め付ける。


 僕は、直くんみたいに――

 紅玉様みたいに――

 ()()()みたいに――

 立派な人間じゃない。


 だから、ただ自責だけが渦を巻く。

 惨めだ。

 なぜ自分が魔女なんだ。


「生きててくれて、ありがとう」


 昔からずっとそうだった。

 直くんは努力の天才だった。

 努力が実り、必ず最後は勝つ。

 僕の中で、彼はそういう人だった。


 そんな彼が、何もできない僕の手を引く。

 何でもできる人が、何もできない僕に「ありがとう」と言う。


 不思議なことに、

 僕はきっと、彼のその一言のためだけに頑張ってきたんだ。


「立場上、言えないけどさ。みんなに逃げてほしいよ。俺だけ逃げるなんて……そんなの、16年前と何も変わらない……」


 ベッドに横たわる僕の目にも確かに、直くんの涙が見えた。

 直くんがここで倒れたら、また魔女社会の再来だ。

 崩壊に向かっている社会が、息を吹き返してしまう。

 それでも……心の底から人々を思う彼が、こんなところでみんなが命をかけて戦っているのを見ていられるはずがなかった。


 彼にだって、できないことはあった。

 努力じゃ、どうにもならないものがあった。

 僕以上に、きっと惨めで、死んでしまいたいと思っているはずだ。


「当たり前だよ。逃げ足には自信があるんだよね。何年だって逃げて、逃げて、逃げて、生きてやる。だから……直くんも、生きてね」


 そう言えば、子供のように泣く直くんを暫く見ていた。

 30分もすれば目元が腫れ上がり、若い頃の直くんそっくりな顔になっていて、なんだか懐かしさを感じた。


「もうしばらく、創造神の天命が聞こえてこないんだよ」


 すると、直くんがボソリと呟いた。その言葉に、やっと落ち着いていた気持ちが…一気に不安へと変わり、酷く呼吸が乱れた。


「なん、なんで!?なんで!!」


 16年前。柊くん――皇帝は普通の大学生だった。


「開闢が言うには、ひよりも殆ど創造神からの天命が聞こえてない。それどころか……一人、天命を無視して見逃した子がいる」


 普通の大学生だった柊くんは…天命を受け死ぬはずだった。

 でも、気分屋な魔女が彼を生かした。

 それどころか、柊くんの思想に強い興味を示し()()()()()を……魔女という()()()を譲った。


 すると、ありえないほどの速度で日本全土に名が広がり、彼を信仰する信者は増加。

 たった半年足らずで、彼は『皇帝』と呼ばれる存在になった。


 その頃から……魔女の殆どが()()()()()()()という問題に直面した。

 紅玉の魔女と…孤高の魔女を除く全員だ。

 天命が聞こえなくなった魔女は、その後の大革命で命を落とした。


「今回は、紅玉さんもだ。この間、開闢が会ったときにそう話していた。()()()()()()()()()がもう、表れ始めてるのは間違いない」


 紅玉様も…直くんも…ひよこちゃんも?

 みんな……みんな、死ぬの?


 自身は、今までと何ら変わりなく天命が聞こえていただけに、そのショックは大きかった。

 また、生き残ってしまう。その焦りで吐き気がこみ上げた。


「冬樹。だから、何度でも俺はお前に言う。生きてほしい…頼むよ」


 僕にそういう直くんの笑顔が、16年前の柊くんと重なる。


『生きてほしい』――

 僕も、柊くんに言われたんだ。

 きっと、直くんも。紅玉様も。

 直接的な関わりはなかったけど、開闢も。


 みんな…柊くんと共に死ぬ覚悟があった。

 でも、彼の願いだから――生きたんだ。



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