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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し

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第八十四話:罪悪感の先に

「遊ばないの?」


「つまんな」


 西玄関の駅側入り口では、春馬率いる第一部隊が交戦中。

 緊張感に包まれたセンター内を、冬樹は半泣きで走り回っていた。


「遊ばねえよ!!僕戦えないし!つか、なんで1人を2人で追いかけてんのさ!卑怯でしょうが!!」


 逃げるのが精一杯で、この状況を打破する策など浮かぶ余裕もない。

 背後から響く足音が、まるで心臓の鼓動を煽るようだ。


「終わりにしよ?」


「そうするか」


 双子の片割れが、ズブンッと吸い込まれるようにもう一方の影へ飛び込む。


「おーしまい」


 全速力で走る。フェイクだったこれまでの速度とは桁違いの速さでもう一人が冬樹の影を踏み抜いた瞬間――

 影を踏んだ瞬間、片割れが弾丸のように飛び出し、一瞬で冬樹の体に斬撃が刻まれた。


「へ……」


 何が起きたのか分からず、間抜けな声が漏れる。

 視界の端で血が舞うのが、まるで誰か他人の出来事のようだった。


「俺ら、地味だし、ぶっちゃけダッセー魔法だけどさ」


「兄様の役に立てんだから。案外イケてる魔法になったよな?」


「「違いない」」

 2人揃って笑う。

 その笑顔が残酷さよりも、どこか誇らしさを帯びていた。


 横たわる冬樹は、自分の流れ出る血をぼーっと見つめる。


「どこから、血…出てんだろ。」


 斬られた痛みは一瞬だった。

 今はただ、傷口から溢れる血が冷たく、身体が急速に冷えていくのを感じていた。

 ショックで上がった体温と、冷えた血が作る異様な寒気。


「魔女ってこういう奴いる意味あんの?」


「さぁ?天命の行使どころか、虫も殺せなさそう」


 2人の言葉が、胸を刺す。

 涙が溢れた。


(僕は…直くんみたいに、魔女になりたかった訳じゃない)


 研修医時代、直くんが魔女になるために反魔女の革命組織に出入りし、

 魔女狩りに加わっていたのを知っていた。

 夜、電話もメールも返ってこない。

 次の日、やつれた顔と泣き腫らした目で職場に現れる直くん。

 皆には「泣けるドラマ見てた」なんて笑っていたけど、

 僕には分かっていた。


 そんなに頑張っていた直くんだ。

 きっと魔女になれるって、信じてた。

 なのに――天は僕を選んだ。


(食事も喉を通らず、食べても吐いてしまう。どんどん痩せていく直くんよりも先に…僕が魔女に選ばれてしまった)


 目覚めは最悪だった。

 頭の中にノイズのような音が響き、やがて誰かに語りかけられているような感覚。

 どんな声だったかはもう覚えていない。ただ「19」という数字だけが、やけに鮮明に響いた。

 これが…創造神の天命なのだと、直感した。


 信じたくない一心で白衣を取り、職場に向かう道中――

 やけに目を引く一人の少女。


 僕が近づくと、少女は涙を流し始めた。


「やっと天命が…光栄ですっ!!」


 通勤通学中の人々の真ん中で繰り広げられる、異様なやり取り。

 その光景に、吐き気を催した。


 今まで創造神を信仰してきたはずなのに。

 魔女となった途端、それがどれほど異質で狂気じみているか理解した。


 僕が初めて天命を行使した(人を殺した)のは、その時だった。


 周囲の人々が「羨ましい」と口々に漏らし、早く早くとせがむ少女。

 もう逃げられない――

 そう悟った僕は、嘔吐物と滝のような涙にまみれながら、

 その少女を殴り殺した。


 それ以来、部屋から出られなくなった。

 病院も、連絡なしに辞めた。

 直くんの連絡先は、消した。


 計り知れない罪悪感は、

 がんばっていた直くんへのものか、

 それとも僕が殺した少女へのものか――


 でも、部屋を出なければ天命は行使できない。

 僕は臆病者だった。

 自分が大事だった。


 だから、SNSに動画投稿を始めた。

「魅了の魔女」と名乗り、聞こえた天命をすべて動画にした。

 視聴者は()()()使()()と呼ばれ、若者を中心に増え続けた。


 サイトのすべての動画は、誰かを殺すためのもの。

 こんな悲しいことをしたかったわけじゃない――

 でも、もう後には引けなかった。


(直くんが嫌いだった魔女。でも…魔女になりたがっていたのに、なれなかった魔女という存在)

(そんな存在に僕は――なってしまった)


「もっと、酷い死に方したかったな…」


 天命の行使がただの人殺しだと認識してから、

 毎日が地獄だった。

 死にたくないのに、死にたい。

 矛盾する気持ちが行き交い続けていた。


「うそ、マジでお終い?」


「弱すぎだろ」


 何とでも言え。

 そんな気持ちで目を閉じた、その時――


「っ!!テメェ!」


 頬を優しい風が撫でる。

 目を開けた先にいたのは――


「知ってましたか?クロロホルムという吸引麻酔…いわゆるアニメでハンカチを嗅がせたら気を失うってやつ、実は実現不可能なんですよ」


「なのでこちらで失礼しますね」


 黒い笑みを浮かべる和哉。

 その手に握られているのは分厚い医学書。

 そして足元には、倒れた双子の片割れ。



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