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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し
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第八十三話:子供の手

「白いあわあわ…」


「終わったら、遊んでもいい?」

 治療をされながら、救急車の窓越しに見えた泡についてひよりが救急隊員に尋ねる。

 しかし、慌てて近くで会話を聞いていた消防隊員が止めに入った。


「え、叡智様!あれは、化学消防車といってガソリンなど油の火災に対応してる消防車から出たもので…薬剤マシマシですから触らないでくださいね!!」


 言われた瞬間、ひよりはシュンと肩を落とす。

 癒しの魔女以外の魔女と話したことのない消防や救急の隊員たちは、オロオロしながらひよりの顔色を伺っていた。


「こ、紅玉様がお呼びになられたんですよ。建物から火を飛ばすから…化学消防車で放水して、できる限り消してくれと」


 その言葉に、ひよりの瞳が大きく見開かれる。

 操作できないほど燃え上がった炎を後ろから捌いてくれていたのは紅玉だった――

 その事実に、胸の奥がじんわりと暖かくなる。


「もっと…がんばらないと」


 いつも誰かが助けてくれるわけじゃない。

 自分一人でも、どうにかできるようにならないと。

 そう思いながら、小さな拳を握る。


「あぁっ!魔女様、いまは握らないでくださいね!」


 焦った声にハッとする。

 ひよりの手から腕にかけて、皮膚が焼けただれたような酷い火傷。

 救急隊員が眉を寄せながら、慎重に指先を触れた。


「指先…これ、感覚ありますか?」


「指は…動くよ?」


 呑気に自分の手や腕を見つめるひより。

 そんな軽い調子とは裏腹に、隊員たちは「どうしよう…」と顔を見合わせ、完全に救急車内でできる治療の限界を超えていることに頭を抱える。


「皮膚の移植手術が必要ですね…」


 その時、どこからか男性の声がした。


「会ったことあるんだけど、もう流石に覚えてないかな」


 救急車に乗り込んできた男性。

 ガソリンの匂いが少しする――先程、シェルターにいた医師だろう。


「近くの病院に手術や治療の手配は済ませてる。順次指示出すから医療スタッフ共々運んでくれ。この子は俺が診る」


「「「はい!!」」」


 返事が三倍返ってくる。

 思った以上の人数が聞き耳を立てていたのだと気づき、ひよりは少し恥ずかしくなる。


「こんなになって、痛くないか?」


 男性は目や耳、口内まで診察する。

 炎で鼻腔や口内を少し火傷していたが、致命傷ではない。


「痛くない」


 流石は炎に耐性がある魔女だと男性は感心しつつも複雑な表情で頭を抱える。


「耐性持ちじゃなきゃ腕どころか骨も残らなかったぞ。助かったが、気をつけなさい」


 説教され、ひよりは気まずそうにコクリと頷いた。


「さっき、紅玉様が来てな。『私がなおやんの所に行くから叡智ちゃんをここに縛り付けといて』だとよ」


 助けに行く――その言葉に心臓が跳ねる。

 助けが必要な状況なのに、自分が行けないことが何より悔しい。


「いいか、譲ちゃん。子供は創造神の遣いであり手足だ。これがどういう意味か分かるか?」


 落ち込むひよりの頭をポンポンと叩きながら、男性は問う。

 ひよりは首を横に振る。


「未来を作るのはいつだって子どもたちなんだ。だから、俺ら大人が死ぬ頃には俺らの時代よりもっと豊かになっていくんだ」


「だから、手は大事にしてな」


 ひよりは、自分の手を見つめる。

 焼けただれた皮膚。感覚すら鈍い。

(もしもう少し酷ければ…魔法が使えなくなってたかも…)

 無理をした結果、未来を潰しかけたことを痛感し、胸が苦しくなる。


「うん」


 小さく返事をすれば、男性は吹き出すように笑った。


「はい、だろ?直哉も俺のところに来たときは『あぁ』とか『おう』とか、歳上ナメてんのかって返事しかしなかったからな」


 慌てて「はい」と小さな声で言えば、


「良い子だな」


 優しい手が頭を撫でる。

 その温かさに、ホッとした途端――ひよりは瞼を閉じ、意識を手放した。



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