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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第一章:始まりの魔女
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第七話:世界と誰か


この作品を読んでいただきありがとうございます。

10万字を越え、記念にご要望のあったキャラクターの自己紹介も兼ねた番外編を書くことを予定しています。今の所、他サイトで奏人の名前は上がっております。

ぜひ、活動報告や作品感想にてキャラクターをリクエストいただけると嬉しいです!

最新話まで読んでいないという方でも大丈夫です!!感想とか書くの面倒だなって思うかもしれませんが、寛大な心でよろしくお願いします!!


 悪気がないことは分かっていた。だからこそ、胸の奥がきゅっと締め付けられるようで、顔を歪める。どうしてこんなに痛むのか、自分でも分からない。そのもどかしさに、気づけば奏人を睨みつけていた。


「貴方にとってスラムが世界のすべてだったように、私にとってはこの()()()()()()()()()()()だったよ」


 ぽつりと呟き、少女は布団へ歩み寄ると、そのまま潜り込んだ。虫の居所が悪い。ただそれだけのこと。しかし奏人は、何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないかと考え込む。けれど答えは見つからなかった。


「……魔女様」


 布団の膨らみへ近づき、そっと声をかける。返事はない。耳を澄ますと、かすかにすすり泣く声が聞こえた。胸がざわつき、奏人はその場を離れて少し距離を取る。布団の中の少女が出てくるまで、じっと待つしかなかった。


 結局その日、夕食まで二人が言葉を交わすことはなかった。



***



「魔女様!!」


 だだっ広い部屋に長テーブルが一つ。豪奢な金の装飾が施された椅子に、少女が一人ぽつんと座り食事を取っている。

 寝落ちしてしまっていた奏人は飛び起き、少女の姿がないことに気づき屋敷内を走り回った。やっとの思いで教徒の一人に居場所を教えられ、部屋に飛び込む。少女と目が合い、安堵で胸を撫で下ろす。


「もう一人分、用意して」


 少女は近くに立っていた教徒にさらりと言い、横を指さして「そこ、座って」と奏人に促す。奏人はおとなしく従った。


「生まれたときからずっと、独りぼっちだったよ。

 周りには沢山の大人がいた。皆、にこやかで、優しかった。でも——」


 そこで言葉を切る少女。その瞳はどこか遠く*赤く滲んでいた。普段の単調な声から、微かな揺らぎが感じられる。あの無邪気さはすっかり消え、代わりに別の影が彼女を覆っていた。


 奏人はただ、何か伝えたい一心だった。全てを言葉にできなくてもいい。ほんのひと言でも、届いてほしい。


「僕が……これからは、魔女様の側にいますから!」


 少女は、普段から多くを語らない。問われれば答えるが、自ら話すことはない。そして話すときでさえ、その空気は「私を否定することは許さない」と言わんばかりだ。

 その雰囲気を悟った奏人は、それでもヘニャリと場違いな笑顔を浮かべる。


 そんな笑顔を向けられるのは、少女にとって初めてだった。目を見開き、少し戸惑った後、ぎゅっと唇を結び小さく頷く。八つ当たりしてしまった自覚があるのか、少女の表情には申し訳なさが滲んでいた。


「ねえ。奏人のご飯、頼んだんだけど……まだ?」


 気まずさを紛らわすようにベルを鳴らす。現れた教徒に問いかける。


「誠に申し訳ございません。司教様より、奏人様への一切の食事提供を禁じるよう指示が出ております」


「は……?」


 少女の口から、思わず漏れた声。それが司教の指示だと知ると、彼女は悔しげに服を握り締める。


「……行こう」


 食べかけの料理を残したまま、奏人の手を引き部屋へ戻る。

 昼にバクバクと食べていたモックドナルド(略してモック)のハンバーガーがまだ残っている。それを手に取った。


「明日こそは日用品と服を買いに行こう」


「夏場にその服一枚はキツいしね……」と少女が言えば、「はい!」と奏人は元気よく返事をする。


 結局、奏人は夕食代わりにモックのバーガーを七つ平らげた。かなりの大食いだが、少女は「男性ってそんなに食べるんだ……」と密かに男性への偏見を構築しつつあった。


 食事を終えると二人は布団へ転がり、パクったスマートフォンで動画を眺める。そのまま、寄り添うようにして寝落ちしてしまった。



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