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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し
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第七十八話:紅玉の魔女

 チョコレートみたいな髪色に、真っ赤な瞳。

 今まで出会ったどの魔女よりも小柄で細身。

 一見すると華奢な少女のようなその人が、紅玉の魔女だとは信じがたい。


 だが――


 目の前で見せたあの爆発は、建物全体の炎を一点に集め、まるで火山のように吹き上げたものだった。

 炎の魔法解除に適正があるごく一部の人間ですらこの規模の火災を止めるのは不可能だ。

 ひよりは、紅玉の問いかけの真意を探るように赤い瞳を見つめる。


「いいじゃんいいじゃーん!その相手を値踏みするような目つき。それに何か疑ってる時は、決まって瞬きが止まる」


 紅玉が愉快そうに口角を上げる。


「師弟がここまで似てると笑っちゃうねー」


 ――すべてバレている。

 ため息が漏れる。

 調子を狂わされる口調。

 自己中心的な振る舞い。

 ひよりは内心、確信していた。


(オバサンと坊さんと同じタイプの人だ……)


 結局、魔女は皆あの境地に辿り着く。

 自分にも、いずれその兆しがあることを知っているから否定できない。


「弟子になってあげてもいいよ」


 投げやりに言えば、紅玉は吹き出して肩を震わせた。


「上から目線でいいじゃん!お姉さん、そういう子嫌いじゃないよ。」


 やはり、この人はただの“物好き”じゃない。

 ひよりの短い16年の経験上、こういう“気まぐれ”は始まりは軽いが、後に執着へと変わる。

 開闢もそうだった。

 ひよりは、もうこの時点で主導権を握る気だった。


「ただし、力を貸して。活躍をもって師匠にふさわしいと思わせて。」


 紅玉は目を細め――


「お姉さん、はりきっちゃうよ〜!」


 肩をぐるぐると回す。


「ひより様!!」


 離れていた硝子と朱里が駆け寄り、ひよりを守るように立つ。

 硝子は怒りを全身で表し、朱里は気配を読むように紅玉を睨む。


「わ〜、すっごいじゃん!パンピー2人、さっきの爆発防げたの?まさかここまで耐えるとは思わなかった!」


 紅玉が手を叩く。

 紅玉の言葉にひよりの背筋が冷たくなった。

 そして唇を噛む。もっと力をつけねばと出来事を胸に刻む。


「あんなぬるい炎で死んでたまるか」


 青筋を浮かべる硝子を見て、ひよりは小さく息を呑む。

 怒りを見せた硝子は珍しい。


「んなことしてる場合か!先いくぞ!敵じゃねぇんだろ?」


 朱里がひよりの手を引く。

 頷くと、紅玉が先導する形で歩き出す。


「ガソリン撒いてるねこれ。私も操るのキツいわ」


 紅玉の言葉通り、通路の炎はどれもガソリン臭い黒煙をあげている。

 紅玉を炎よけに先導させれば、通路を包む炎は消えていく。しかし、紅玉は嫌そうな顔だ。


「厳しい?」


「ちょっち、キチーなぁ」


 炎を操れる人間にも個性がある。ひよりのように自身の手や言葉から好きな場所へ着火、好きな造形に形どれる人間というのはこの世に何人もいるかどうか。ライターなどの火器を使って炎を操る人間もいれば、着火はできても操れない人間、炎は炎でもガソリンやアルコールなどで燃えた炎が苦手な人間もいる。故に、他の魔法でもそうだが、同じ魔法でも全く同じことができる人間は一部を除き存在しないと言われている。


「叡智ちゃん、炎上書きできそう?」


(炎を上書き……?)


「地を這へ」


 先程のように自身の炎を起こし、周囲の火を食わせる。

 炎が収縮したのを見て紅玉が手を叩き、炎の塊が一瞬で無音の小さい爆発を起こして消滅した。


「叡智ちゃん、ありがとねー。それにしても……」


 紅玉はニヤリと笑う。


「まっしーの弟子なら、アレ言うのかと思ったのに。」


「アレって?」


 ひよりがそう問えば「う〜ん」と唸りながら考えている。


「う〜ん……地獄ノ炎(ヘルフレイム)とかかくれんぼ(ハイドアンドシーク)とかさ。まっしー、変な名前つけるの好きだったじゃん?」


 ひよりは固まる。

 開闢のそんな一面など知らない。


「……知らない。」


 硝子と朱里も気まずい表情を浮かべる。


「えぇー!!まっしー、アレやめちゃったの?でもゆったんも昔やってたよ?陛下(皇帝皇帝)なおやん(直哉)もさ!」


 ひよりは、聞いてはいけない魔女四人の黒歴史を聞いてしまった気分で天を仰ぐ。

 笑いを堪えられるだろうか。


「おやおや。敵さん発見!」


 開けた場所に10人ほどのローブの集団が立ち塞がる。

 通路を守るように立つ姿は異様だ。


「炎ぶっ放して、弟子にいいとこ見せちゃうぞー♪」


 紅玉の瞳が、不気味に光った。



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