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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し
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第七十六話:矛盾する主張

「硝子、朱里!」


 正面玄関がどこか分からず敷地内を走り回る。ふと視界の端に、オレンジ色の派手な髪が揺れるのを見つけ、全力で駆け寄った。


「ひより様、私たちで話し合ったんですが……奏人様たちの方ではなく、第一聖教会に行ってみませんか?」


 着いた途端、硝子が切り出す。その意外な提案に思わず目を丸くしたが、同時に感心もした。普段の怪力だとか、脳筋だとか、そういう一面の裏に賢さもあるのだろうと。


「ちょ、待てよ!!こいつ『刑事のDNAが騒いでる』とかいう意味分かんない理由で言ってんだぞ!?納得すんなよ!!」


 朱里の一言で、硝子の好感度は一気に地面に突き刺さった。なんだ、結局は勘か。ひよりは深いため息をついて二人を見た。


「詳しい話は後。私も第一聖教会がいいと思ってたから。行こ」


 その言葉に、朱里は目を見開く。


「叡智の魔女の周りの人間って……イカれてる奴らしかいないのかよ……」


 結構マジで、こんな奴らが本当に魔女と従者でいいのか悩んだのであった。


「信仰統制局のすぐ側でしょ。走ろ」


 ひよりの言葉で、彼女と硝子は一斉に全速力で駆け出す。しかも、ひよりは7、8歳くらいの少女を抱きかかえたまま――その速度はまさに人間離れしていた。


「先っ……いってろ……ハァハァ」


 後ろで朱里が息を切らしながら追いかける。心の中で「こいつら、原付きより早いだろ!」とツッコむ。腐っても魔女と従者。侮れない、と痛感した。


「魔女様、はやーい!!」


 抱き上げられた少女が、キラキラした目で楽しそうにはしゃぐ。その様子に、走りながら硝子がギョッとした目でこちらを見てきた。


「ひより様……いつの間に、お子様を……」


 え、私が生んだんだっけ?と一瞬本気で焦る。もちろん、そんなはずはない。硝子の真顔に一種の洗脳を受けかけた。


「硝子!!」


 そんな茶番の最中、大通りを曲がった正面に第一聖教会が見えた――その建物は、炎に包まれていた。


 大量の消防車と救急車が、第一聖教会から離れた位置で足止めされている。鎮火も救助も行おうとしない。ただ、遠巻きに様子をうかがうばかり。


「どうなってるんですか!!」


 硝子が声を荒げて近くの消防隊員の胸ぐらをつかむ。しかし隊員は虚ろな目で、まともに話せる状態ではない。


「どこかの……武装した教団が……聖教会に……!!」


 珠玉の教徒か――?ひよりは奥歯を噛みしめ、拳を握った。


「この子、預かって」


 抱えていた少女を硝子に手渡す。視線を交わし、ひよりは迷わず炎に向かって歩き出した。


「待ってください!!一般市民の方が行っては――」


 周囲でひよりの会話を聞いていた消防隊員や救急隊員たちが慌てて止めに入る。その手を、ひよりは鋭い視線で振り払った。


「貴方達が動かなくて、誰が動くんだよ!!」


 声が、空気を震わせる。


 硝子は思わず目を見開いた。後から駆けつけた朱里も、その怒声に心臓が跳ねた。


「警察は?管轄が違うからって、第一聖教会が襲われてても関係ない?消防と救急は?他の医者は?

 貴方達は()()()()()の庇護下で生きてきたでしょう!!恩恵を受けてたんでしょう!!いつも守ってもらってたくせに、状況が悪くなった途端に棒立ち!?教徒なら――命かけてよ!!」


 ひよりは自分の声が震えていることに気づいた。魔女社会を嫌うくせに、こういう時だけ魔女社会に縋る自分が嫌だった。それでも、直哉の姿が脳裏をよぎる。誰からも見返りがないのに、彼は人生をかけて人々の幸せを願った。それが、都合よく利用されているように思えて、黙っていられなかった。


「分かってますよ……分かってるんです!!」


 隊員の一人が絞り出すように言った。その言葉に周囲の人々は拳を握り、震えている。恐怖で動けないのだ。


 かつての魔女社会なら、その震える拳を天に突き上げ「魔女様のために」と命を賭けられた。今は違う――ひよりは、魔女社会の崩壊の一端をまざまざと見せつけられた。


「叡智の魔女が、最前線を引き受ける。覚悟がある人は――30分経ったら入ってきて。」


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