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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し
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第六十九話:物騒なこと

「硝子、軍服似合ってるね」


 開闢の執務室横にある仮眠室から抜け出したひよりは、広い館内をあちこち探検して回っていた。

 幼い頃は、開闢やフクロウの守り人、それに軍の人間が誰かしら張り付いていたから、こうして自由に歩き回ることなんてできなかった。


「ひより様、見てください。私の特注らしいですよ」


 ホラホラ、と剣や豪華で重そうな服を見せびらかす硝子は、相変わらずだった。

 きっと物で釣られたんだろう。ひよりは思わず笑いをこらえる。


「硝子、ここって牢があったと思うんだけど。どこか知ってる?」


 ひよりの問いに、硝子は少しだけ顎に指を添えて悩む素振りを見せる。


「聞いてみますか?私、どうやら元帥殿の補佐にしてもらったらしいので。多分偉いです」


「ひより様が成長したら、ひより様の補佐だって聞きました」

 とさらりと口にされ、思わず吹き出しそうになる。


(硝子に補佐なんてできるのかな……)


 心の中で小さく呟きながらも、とりあえず後に続く。

 だが――予想外にも向かった先は、あの恩着せがましい運転手の元だった。


「あぁー!はいはい!牢屋。焼却炉教えたでしょ?そこの裏かな!貸しだy…」


 ドカッ。

 貸しだよ、なんて言いかけた元帥の鳩尾に硝子の拳がめり込む。

 続けて、先ほどまで見せびらかしていた剣を無造作に突き立てた。


「大したこともしていないのに貸しですか。元帥殺せばチャラですよね?」


 物騒だ。

 ひよりは(普段見せない真面目な一面かと思ったけど、違った…)と冷や汗をかく。

 怒らせないようにしよう、と心に刻んだ。


「ごめんごめん!許してちょ♡」


 軽い口調でごまかす元帥を無視し、硝子はひよりの手をぐいと引く。


「ここらしいですね。鍵、かかってます」


 辿り着いた先で、ひよりはやはり鍵がかかっているのを確認した。

 (どうせなら鍵の在り処も聞けばよかったかな…いや、それを聞いたら本当に貸しになりそうだし…)と考える。


「壊しますね。下がってください」


 その言葉にひよりは一瞬キョトンとする。

 (あのかっこいい剣、ボロボロにならないかな…)と心配していたが――


 バキッ。

 鉄が弾き飛び、扉が開く。

 硝子は剣を使わず、拳一つで鍵ごと破壊していた。


(菜摘さんとか、奏人も結構…怪力というか、すごいと思ってたけど…硝子は、ゴリ…)


「ゴリラ」と言いかけたのを、ひよりは寸前で飲み込む。

 最近覚えた言葉――“多様性の時代”で自分を言い聞かせた。

 (ちょっとくらい力の強い女性がいたって、いいじゃない…)


 中へ入れば平坦な道が続く。

 アニメに出てきそうなTHE牢屋のような、薄暗く不衛生な場所ではなく、

 窓に格子を付けた学校の教室のような部屋がいくつも並んでいた。


「この人」


 牢屋はほとんど空で、もう使われていないのかと思った矢先――

 奥の方に人影が見えた。近づくと、それは見知った顔だった。


「あんたは…」


 短い黒髪に、つり上がった目。間違いない。


「東雲朱里」


 ひよりは小さくつぶやいた。


「私は、ここから出たい。だから、貴方も来て」


 ひよりの言葉に、朱里は目を見開く。

 なぜ自分を?と言いたげに、唇がわずかに震えていた。


「出会った人みんなを大切にしたいから」


 ひよりは迷いなく手を伸ばす。


「だから、来て」


 そんなひよりの姿を見て、硝子は無言で窓枠の格子を引き抜いた。


「早く」


 促す硝子の声に、朱里は一瞬だけ逡巡し――

 勢いよくひよりの手を掴んだ。


 その瞬間。


「ひより。行かせないよ」


 背後から聞き慣れた声が響く。

 来た道に立つのは開闢だった。

 やっぱり…ひよりは心の奥で呟く。

 元帥に牢屋の場所を聞き、ここまで派手に動けば、気づかれて当然だ。


「行くよ。なんだか嫌な予感がする。オバサンが私を構うときは、いつだって何かから遠ざけたい時。それも…普遍が崩れる()()()()()


 ひよりの言葉に、開闢は声を張り上げて笑い出した。


「なら、私が殺してあげようじゃないか!!壊してあげよう。乙梨硝子と東雲朱里は、殺したあと生首を野ざらしだ。見せしめだよ!!ひよりは…まず足だ。足を落とす。二度と私のもとから逃げ出せないようにね!!」


 どす黒いナニカが、開闢を中心に渦巻く。

 初めて見るその魔法に、ひよりは身体の芯から恐怖を覚え――意識を手放した。



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