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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し
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第六十八話:過る不安

「いやぁぁぁっ!やっぱ無理じゃん!来んなよバーカ!!」


 魔法を咄嗟に使ったものの、ターゲットを自身に設定することしか思いつかなかった冬樹。

 その結果、双子の標的はお局様から彼に移り、現在進行形で延々と追尾されている。

「何でこうなるの!?」と内心絶叫しながら、後悔すらし始めていた。


「つか!お局様!!研修医時代、当直明けなのに欠員出たからって夕方まで働かせてきたよね!?

 働き方改革って知ってる!?そんなんだから音信不通で来なくなる医者がいるんよ!!僕、許してないからね!?」


「畜生!!クソババア!!」


 叫びながら双子から逃げるその声は、ロビーどころか直哉やお局様の耳にも届くほど馬鹿みたいにデカかった。


「ゆったんは相変わらず元気だねぇ。見習いたいものだよ」


 刺客がついさっきまで部屋の目の前にいたというのに、

 直哉は呑気に遊びで使っていたバリウムをスプーンで掬い、口に入れていた。


「流石のお局様もヒヤヒヤしたんだろう。寝かせておいてあげて」


 双子が見えなくなるまでは虚勢で立っていたお局様だが、見えなくなると同時に緊張が解け、足腰が抜けてその場に崩れ落ちた。

 気絶した彼女を、同じ部屋に控えていた和哉と隼人がベッドへと運ぶ。


「なんだか、流石は魅了の魔女っていう感じの妖美さを感じたのに……あっという間の情けなさですね……」


 隼人が苦笑すると、それにつられて和哉もクスクスと笑った。

「だろう?」と直哉は何故か自慢げに胸を張る。


「そうだ。ねえ、隼人くんさ。10年くらい前……当時俺が24だった頃かな?兄弟に火傷を負って病院を受診した子とかいなかった?」


 突然話題を変えた直哉に、隼人は一瞬違和感を覚えたものの、すぐにハッとする。


「います。8つ下の弟が……6歳のときに東京の病院...今の第一聖教会を受診しました」


 その返答に、直哉は顎に手を添え、少し考え込むように視線を落とした。


「西玄関かな。行ってあげたほうがいいと思うよ」


 ドキリと心臓が跳ねる。

 なぜそんなことを言うのか――隼人の目が問いかけるように直哉を見つめた。


「春馬……今、最前線で珠玉と戦ってるんだよね」


 その言葉に、隼人の体が小さく震えた。

 理屈ではなく、行かなければ後悔する――そんな予感が全身を駆け巡った。


「行かないと」


「行かないと!!」と隼人は叫び、

 直哉の言葉に背中を強く押されるように部屋を飛び出す。


「行っておいでよ。俺は最悪裏から逃げればいいし。車も用意してるよ」


 直哉の気遣いに「ありがとうございます!!」と隼人は振り返らず答え、全速力で駆けていった。


「和哉」


 残された和哉の心が揺れていた。

 兄を守るために残るべきか、それとも菜摘・冬樹の元へ加勢すべきか――。

 迷いの最中、直哉が声をかける。


「ひよりを信じると決めたのなら、和哉のやるべき事は、ここにいる事じゃないはずだ」


 まるで心の内を見透かされたかのようで、悔しさが滲む。


「俺はそろそろ一人で逃げるよ。元々春馬に言われてたからね。敗北は免れない。でも、みっともなくも俺が生き残ることに意味がある」


 だから心配するな――

 直哉の瞳がそう語っていた。

 和哉はドアに手をかけ、振り返らずに言い残す。


「あんたは逃げませんよ。絶対に。だから、みんなを連れて早く帰ってきます」


 そう言って和哉は部屋を出た。


「力、つけてもらわなきゃ困るよ……みんな。魔女社会()()()()()が近づいてる」


 直哉は和哉が去ったドアを見つめ、独り言のように呟いた。

 その瞳に映るのは――


(ひいらぎ)……俺、ちゃんとお前の物語の続きを描けてんのかな」



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