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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し
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第六十七話:掛けた願いと魅せる姿

 ロビーに向かえば、入ってきた時の三分の一程度の人数になっていた。


「貴方方は!!」


 残った人々の中に、笹野の姿があった。

 冬樹と菜摘は、以前に一般市民として春馬から紹介されていたため、声をかけられてどう返すべきか一瞬焦る。


「魅了の魔女様と、癒しの魔女様のご友人ですね」


 しかし、笹野は二人の戸惑いに気づいたのか、小さな声で続ける。


「心強いです」


 正体がバレバレであったことに冬樹は心底驚き目を丸くするが、菜摘は強気に訂正した。


「叡智の魔女の()()だ。よろしく頼む」


 その言葉に、笹野は一瞬目を見開いたが、すぐに口元に微笑を浮かべ西玄関入り口へ視線を向ける。


「最前線は、第一部隊が配置されています。ここは、春馬様自ら指揮を執られています。もうすぐ戦闘が始まるでしょう。珠玉が確認されたのは駅側ですが、別の場所からの攻撃も考えられます。第二部隊は東玄関。そして、我々――最後の砦である第三部隊がロビーを守ります」


 その説明に、一同は思わず息をのんだ。

 直哉のお付きが最前線にいる。突破されれば、士気が崩れるどころでは済まない。


「誰も死なせたくない。自分が止めてみせる――と春馬様はおっしゃっていました」


 直哉のお付きだからこそ、直哉と同じように、一人でも多くの人に生きてほしいと願っているのだ。

 直哉に従う者たちはやはり、真っ直ぐで……まるでそれぞれが漫画の主人公のような人ばかりだ。


1()6()()……本来は、我々が守るべき子供であったはずなのに」


 笹野がボソリと呟く。その言葉に、菜摘の眉がわずかに動く。


『報告です!! たった今、第一部隊と珠玉の戦闘が始まりました! しかし、珠玉の従者である()()が見当たりません!!』


 無線から響いた声に、菜摘は反射的に走り出した。


 聞いていなかった。ひよりと同じ16歳の子供が、今まさに日本の未来を、医療従事者や消防に従事する人々の命を懸けて戦っているなんて――

 子供が、大人のために身を犠牲にしているなんて。


「あっていいはずがない」


 大人として、守りたい。同じく直哉に憧れた人間として、守りたい。

 その想いが、菜摘の背中を強く押した。


「菜摘!? え、あ、ちょっと!!」


 慌てて追おうとした冬樹。だが――


「大変です!! 珠玉の従者……双子が、現在直哉様の元へ向かっているとモニタールームから報告が!!」


 別の情報が冬樹の耳に飛び込む。

 こちらもこちらで、穏やかではいられなかった。


「僕が行く!!」


 来た道を全速力で駆け戻る。

 自分が行ったところで、攻撃系の魔法を使えるわけじゃない。すぐに詰むのは分かっている。

 それでも――


「理屈じゃ、ないんだよ!! だって、直くんは……」


 親友なんだ。そう叫び、足に力を込める。

 菜摘と連携しやすいことは分かっていた。

 菜摘に付いていくべきなのは明白だ。

 だが、どれだけ自分を嫌悪しようと、今できることを全力でやるしかない。


「さっさと出ていきな!!」


 すぐそこの角を曲がれば直哉がいるはず――そう思った冬樹の足が止まった。

 お局様の怒鳴り声が聞こえたからだ。


「なんだ? この婆ちゃん」


「さぁ」


 ひよりの屋敷で聞いたことのある声。間違いなく、珠玉の従者である双子だった。


「あたしの旦那も、息子も!! あんた達みたいな化物と教徒のせいで死んだんだ!! あたしゃ、()()()()()()だよ!!」


 恐る恐る角に手をかける。

 覗き込んだ先で、お局様と目が合った。


「だけどな!! もう二度とそんな時代が来ないように、クソガキ共《直哉と冬樹》が日本の未来を変えようってんだい。あの子らの命に、この老いぼれが代われるなら……肉壁にだってなれる!!」


 魔女社会の負の一端だと思っていた。

 “魔女と滅ぶのは光栄だ”――そう言うのだと思っていた。


 でも違った。

 ここで戦う人々は、未来に賭けていた。

 例え、幸せになるのが自分じゃなくても、子供やその子供、何代も後の未来の誰かであっても――。

 誰かの幸せのために、癒しの魔女に全てを掛けていた。


「肉壁って。婆ちゃん、骨と皮じゃん」


「これ、あれじゃないか?」


 双子の片割れが、低く冷たい声で呟く。


()()()


 人の痛みも、叫びも、全部知っていた。

 “俺がみんなに平等に医療を届ける時代を作る”――

 そんな格好いいことを言う親友を見て、僕もそんな未来を夢見た。

 簡単な道のりじゃなかった。直くんを置いて僕は挫折した。でも――


「決定じゃん。癒しの魔女は、魔女でありながら反魔女を掲げる人間を育成していた。開闢に一言で邪魔者が消える」


 今も昔も、その願いは変わらない。

 冬樹は角から勢いよく飛び出し、指を折りながら双子に腕を振り上げようとするお局様を庇うように立ちはだかる。


(――お前達なんて、()()()()()()だ)


「魅せるよ」


 それが魔法の合言葉。

 長い前髪をかき上げ、ニヒルに笑う姿は誰もを魅了した。


「これでもう僕に夢中だ。他に手出しはさせないよ」

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