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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第三章:革命の兆し
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第五十三話:興味と優しさ

 ひよりと奏人は、屋敷に帰るとすぐに手を洗い、うがいをして部屋へ向かった。嫌いな開闢に買ってもらったとはいえ、欲しかったものは仕方がない。二人はドキドキしながらスイッチを開封した。


「おい、ひより、奏人――ストップだ」


 すると、背後から菜摘の声が飛んできた。


「設定しないと使えねえから。今日は我慢してくれ。俺が仕事の合間にやっとく」


「設定…だって…?」


 二人はまるで地球が終わったかのような顔で菜摘を見つめた。だが、使えないものは仕方がない。その日は菜摘にスマホとスイッチを預けて、いつも通り屋敷で過ごすことになった。


 翌朝。


「悪い。スマホだけ急いで設定済ませた。スイッチはしばらく待ってくれるか?」


 菜摘は疲れ切った顔でそう言い、目の下にはクマができていた。


「じゃないと、俺が死ぬ…」


 顔色の悪い菜摘の様子に、ひよりと奏人は顔を見合わせ頷いた。きっと夜遅くまで仕事をしていたせいだろう。そう思えば、逆に申し訳なさすら感じた二人は、今日は静かにしていようとスマホを持って散歩に出かけた。


「奏人、電話のマークのところに…みんなのがある」


 いつもの公園のベンチに座り、ひよりがスマホを起動する。真っ先に目に入った緑色の電話アイコンをタップすれば、和哉、奏人、硝子、直哉、菜摘、隼人…と順に全員の電話番号が登録されていたのだ。


「わ〜!これ、押したらかかりますか??」


 そう言いながら、奏人は自分のスマホ画面に表示された『隼人』と書かれた名前をタップした。


 リンリンと鈴のような音が鳴り響く。


「はい、小林です」


 優しげな声がスマホ越しに聞こえた瞬間、奏人もひよりも思わず目を輝かせた。


「本当に…出たね」


 ひよりが呟くと、電話の向こうの隼人はクスクスと笑った。


「楽しいですか?」


「うん、楽しい」


 隼人の問いにそう返すひよりの頬には、自然と笑みが浮かんでいた。


「隼人は暇そうだったのでかけてみたんですよ〜!やっぱり暇でしたね!」


 すると、奏人はいつもの調子で隼人を煽り始める。


「ひより様。奏人様からの電話には今後一切出ませんので、ご自身のスマホからお願いしますね」


「失礼します」


 そう言い残し、あっという間に電話は切られてしまった。


「隼人も相変わらず沸点低いですねぇ〜」


 つまらなさそうに呟く奏人に、ひよりは小さく笑いながら答える。


「あんなこと言っても、きっと隼人は出てくれるよ」


「知ってる」


 二人は顔を見合わせると、同時に口を開いた。


「「隼人は優しいから」」


 その言葉が重なった瞬間、二人は吹き出しそうになった。それだけ隼人の優しさは二人の中で強い共通認識になっていたのだ。


「そうだ。登録したい人がいるんだけど、いい?」


 ひよりが思い出したように呟くと、奏人は首を傾げた。だがすぐに頷き、ひよりの後をついていく。


 ひよりの屋敷から二キロほどの場所。まだまだ叡智の魔女を崇める人々が多く住むエリア内の、新しめの家の前で立ち止まった。


「おかしいな…ここなんだけど」


 ひよりは首を傾げ、見上げる。外観が新しく、見覚えのない家だった。


 そんな時――


「あら、ひよりちゃん?見ないうちに大きくなったわね〜!」


 後ろから優しげな声がして振り返ると、白髪混じりの女性が立っていた。


()()()()のお母さん」


 ひよりが親しげに声をかける様子から、この女性がひよりにとって大切な存在であることは明らかだった。奏人は邪魔をしないよう、少し後ろに下がった。


「ごめんなさいね。ついこの間リフォームしたばかりだから、外観じゃわからなかったわよね。最後に会ったのはひよりちゃんが…このくらい小さいときだったかしら?」


 女性は自分の腰あたりに手を添え、昔のひよりの背丈を示す。


「そんなに小さくないよ!」


 プクッと頬を膨らませて反論するひよりに、後ろから見ていた奏人は笑みをこぼした。最近は開闢との遭遇もあり、暗い顔をしていたひより。しかし、こんなに素で楽しそうに話す彼女を見て安心した。


「あらあら、そうかしら?ふふふっ。冬樹(ふゆき)なら二階よ」


 女性はドアをガチャリと開け、入り口すぐそばの階段を指差した。ひよりと奏人は「オジャマシマス」と最近覚えた挨拶を引っさげ、導かれるまま二階へ上がった。


 上がってすぐ見える部屋のドアをコンコンコンと三回ノックする。これも菜摘に教えてもらったことだ。


「母さん?どうかした?」



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