第三話:阻むナニカ
この作品を読んでいただきありがとうございます。
10万字を越え、記念にご要望のあったキャラクターの自己紹介も兼ねた番外編を書くことを予定しています。今の所、他サイトで奏人の名前は上がっております。
ぜひ、活動報告や作品感想にてキャラクターをリクエストいただけると嬉しいです!
最新話まで読んでいないという方でも大丈夫です!!感想とか書くの面倒だなって思うかもしれませんが、寛大な心でよろしくお願いします!!
「旧型?」
奏人はよく分からないというような表情で少女の言葉を繰り返した。
「今は24世紀。はじまりの魔女が誕生してから、もう300年近く経っている。でも、技術は300年前からほとんど変わっていない。なぜだと思う?」
少女の問いに、奏人は目を丸くして考え込む。その必死な様子が新鮮で、少女は布団の上に頬杖をつきながらその姿を面白そうに見守った。
「……魔法が使えるようになったから、ですか?」
意外にも核心を突いた答え。スラム育ちの彼にそんな発想があるとは思っていなかった少女は、瞳を細めて微笑んだ。
「正解だよ。人間の多くは普通か、それ以上の生活を送っている。そんな人々が次に求めるのは生活水準の向上じゃない。魔法の習得だ」
そう告げると、奏人はさらに考え込むように視線を落とした。次の問いを投げる。
「なぜだと思う?」
奏人は少し不安そうな表情を浮かべた後、はっとしたように顔を上げる。
「……魔法を使える人は、偉くなれるから……?」
「どうしてそう思ったの?」
自分の考えが認められたと思ったのか、奏人の表情が一気に明るくなる。
「スラムにいた子供の中に、たまにいました。魔法を使える子が。でも、そういう子はお金持ちの大人に連れて行かれて……たぶん、役に立つからだと思ってました」
その答えに、少女の口元がゆがむ。嬉しさと興奮が入り混じったような笑みだった。
「実に貴方らしい答えだ」
布団の上をゴロゴロと転がりながら、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のように目を輝かせる。
「この国の警察、消防、医療機関、政治家。ほとんどの機関のトップには魔女がいて、その周りを魔法の使える人間たちが固めている。魔法が神聖なものと信じている人類が、魔法の使い手を特別視するのは当然だろうね」
「この屋敷の人間たちも、私を信仰しているんだよ」
「おお〜!」と目を輝かせる奏人。その素直な反応に、少女は思わず視線を逸らし、気恥ずかしそうに小さく息を吐いた。
「……そんな人々からすれば、魔女の手足として働けることは幸福なんだよ」
ひと呼吸置いて続ける。
「魔法を習得すれば、魔女になれる可能性もあるからね。もっとも、『魔女の卵』と呼ばれる魔法使いは人口の1割ほど。一千万の卵に対して、孵化できる枠はたった13。それが現実だ」
「なるほど……」と頷く奏人。その理解の早さに、少女はまた満足げな笑みを浮かべた。
「まぁ、この板の開発も進まなかった訳じゃないけど……。ある時期を境に、何か目に見えない力に阻まれているように開発が止まった。技術の限界か、魔法による妨害か……」
そう言いながら肩をすくめると、奏人は驚きと疑問の入り混じった表情で少女を見た。
「真実がどうであるかなんて、誰にも分からない。でも、可能性で言えば――」
少女の視線が細まり、口角がわずかに上がる。その顔は「もう答えを確信している」と言わんばかりだった。
「創造神様がストッパーをかけているのかもね」
その言葉を聞いた奏人はハッと息を呑む。彼なりに「人々が開発を諦めた理由」を結論づけたようだった。
少女は再びスマートフォンに視線を落とし、何気なくアプリをタップする。その時――
「魔女様は本当にすごいんですね!一千万人の中で、魔女になれたんですから!」
急に前の話題を掘り返され、少女は思わず顔を覆った。
「私は他の魔女たちと違う。魔女の卵から孵化したわけじゃない。創造神様が、生まれる前から私を魔女に選んだだけ」
努めて冷静にそう言いながらも、内心では恥ずかしさがこみ上げる。
「だから、私がすごいわけじゃない。努力もしてないし」
続けようとするが、奏人は止まらない。
「でもすごいです!創造神様が選んだんですもん!」
無邪気に褒めちぎる奏人。その言葉に、少女はますます顔を覆い、布団に潜り込んでしまった。
「……もうやめて」
声は小さく震えていた。しかし奏人には届かない。この光景は、奏人が満足するまで続いた。
「……まあ、要するに」
無理やり話題を元に戻し、少女はスマートフォンを掲げる。
「開発が進まなかったせいで、今も300年前とあまり変わらない。ただ、新型は顔認証や指紋認証が必須になった。旧型はパスワードだけだから、まだ扱いやすい」
ようやく話題が切り替わり、少女は少しホッとしたように息を吐いた。一方の奏人は、「理解しました!」と笑顔を浮かべ、まだ楽しそうだった。
そんな奏人を横目に、少女はスマートフォンを操作する。
「なんですかこれ!人が動いてます!」
「……確かに、すごいね。私もこういうのは初めて見る」
2人の視線を奪ったのは、生中継の旅番組。画面の中で人々が自由に動き回り、食べ、笑い、歌っていた。
その後も次々と流れてくる動画に二人は夢中になり、夕食も忘れて夜明けまで見続けた。
この夜を境に、少女のスマートフォンに対する評価は「人間が連絡に使う板」から、「便利で面白い文明の板」へと変わったのだった。