第二話:スマートフォン
※魔女という表記について、多くの方から質問をいただいたので記載します※
始まりの魔女(プロローグにてバスタ新宿前に現れた女)に感化された男女13人が、自身を魔女だと名乗りをあげた時点で従来の魔女という意味からは異なっています。
そのため、魔女という単語は魔法を使う女性という従来の意味ではありません。始まりの魔女の、創造神によって繁栄がもたらされるという主張を支持する意思表示として男女問わず魔女を名乗っています。
違和感があることと思いますが、あくまで日本であり日本ではない世界ですので常識や細々とした言葉、考え方は違う発展を遂げていると考えていただけると幸いです。
この作品を読んでいただきありがとうございます。
10万字を越え、記念にご要望のあったキャラクターの自己紹介も兼ねた番外編を書くことを予定しています。今の所、他サイトで奏人の名前は上がっております。
ぜひ、活動報告や作品感想にてキャラクターをリクエストいただけると嬉しいです!
最新話まで読んでいないという方でも大丈夫です!!感想とか書くの面倒だなって思うかもしれませんが、寛大な心でよろしくお願いします!!
「お疲れ様です!車内冷えてますから!さあ、こちらへどうぞ!」
来た道を戻り車へと近づく。運転席からハッとしたように飛び出した男性が差し出した手を、少女は取らなかった。行きとは違い、少女自らがドアを開き、奏人を先に乗せる。
「ありがとうございまーす!」
ニコニコしながら乗り込む奏人。その様子を横目に、男性はなんとも言えない顔をしている。風に乗って漂う奏人の悪臭に、咳払いを一つし、渋々と運転席へ戻った。
サイレンが再び鳴り響く。その音に、奏人はビクリと肩を揺らす。だが、外の景色に夢中なのか、気にしていない様子だった。
車が発進してしばらくすると、少女の住まう屋敷が見えてきた。豪奢な装飾、広大な敷地。まさに「豪華絢爛」という言葉が相応しい屋敷が、そこにあった。
車が勢いよく停車し、前のめりになった少女は小さくため息を漏らす。奏人はと言えば、シートベルトをしていなかったため座席から転がり落ちていた。少女は彼に手を差し出し、奏人がそれを取ると優しく引き上げてドアを開く。二人が降り立つと、後から男性も車を降りてヘラヘラと頭を下げた。
その態度に、反省の色は微塵もなかった。
「では、私はこれで!」と早口で告げると、そそくさと車に戻っていった。
「お帰りなさいませ、魔女様。そちらの人間は…?」
再びため息をつく少女に、聞き慣れた声がかかる。振り返ると、金の刺繍が施された白いローブを纏う中年の男性が立っていた。その視線に、少女は気まずそうに目を逸らす。
少女の乗る車のすぐ後を追ってきていた老人二人が、車を降りるや否や中年の男性に報告する。
「司教様。こちら、寛大な魔女様によって保護された子供です」
「それも、スラムに住む不浄の民ですよ」
侮蔑の色を隠そうともしない二人。しかし、当の奏人は庭を眺め、興味を示さなかった。
「弟子だから」
少女の短い言葉に、周囲が目を見開き、空気が凍りつく。
「あと、警察の偉い人に伝えて。もっと運転が上手で気が利く人をよこしてって」
司教と老人たちに背を向け、少女は屋敷の中へと歩み出す。その後ろ姿を見送りながら、奏人も慌てて後に続いた。
だが、司教たちの視線が奏人に注がれる。少女の背が見えなくなった途端、その眼差しは冷たく、敵意すら含んでいた。
「魔女様!置いていくなんて酷いです…」
頬を膨らませ、抗議する奏人。
「何が魔女様だ!!」
「貴様のようなゴミが、気安く呼ぶな!!」
老人二人が激昂し、奏人に殴りかかる。避ける間もなく頬に拳が当たり、倒れ込む奏人。
「何をしている!アザの一つでも魔女様に知られたらどうなるか分かっているのか!!大事になったらどうするつもりだ!」
司教の声に、老人たちは青ざめて奏人を離す。司教は舌打ちしながら、無言で屋敷へと入っていった。
その後、奏人も屋敷へ入り、立て続けにボロ布を剥ぎ取られ、風呂に放り込まれた。何度洗っても汚れと悪臭は完全には落ちない。
「魔女様のお弟子さんですから、できる限り良いものを集めましたが…少々、いや、かなり小さいですね。申し訳ありません…」
服を着せられた奏人の姿は、パツパツで袖は肘までしかなく、動くたび背中が覗く始末だった。
「はい!ありがとうございます!」
元気よく礼を言う奏人は、女性の持つカゴの中にある“何か”を見逃さなかった。
「いい匂いになったね」
女性に連れられ、少女の部屋へ向かう。女性は奏人の言葉に苦い顔をする。
(“マシ”にはなったけど、いい匂いでは…)
それを口に出すことはできず、「では、私はこれで」と頭を下げ退室した。
女性が去ると、奏人は子犬のように少女に駆け寄る。
「魔女様!さっき着替えをした部屋にこんなものが!!」
布団に寝転び、威厳をどこかに置き忘れた少女は、奏人が手にしているものに目を向ける。
「へぇ。それ知ってるよ。連絡に使う板だ」
世間ではスマートフォンと呼ばれるソレを、スラム育ちの奏人が知るはずもない。少女も興味がなく「便利な板」程度にしか認識していなかった。
「わっ、つきましたよ?あ、でも押しても何もならない…」
ロック画面で止まったスマートフォンをブンブン振る奏人を見て、少女が手を伸ばす。
「こうだね」
画面を軽くタップするとロックが解除された。
「すごい!!なんで分かったんですか!?」
瞳を輝かせる奏人に、少女は小さく笑った。
「あなたを連れてきた女性が、服を着替えさせるときにでも適当に置いたんだろう。見たところロックがかかってたし、彼女が考えそうなパスワードを入力しただけだよ」
大抵は誕生日か何かだと予想していたが、それよりもずっと単純だった。少女は苦笑した。
「どんなパスワードですか!?どうやったら思いつくんですか!?」
教えてと迫る奏人に、少女は少し考えてから口を開く。
「4月30日がなんの日か知ってる?」
「お祭りの日です!!」
誇らしげに答える奏人に感心しつつ、少女は補足する。
「ワルプルギスの夜。魔女たちが集うお祭りだよ。16年前までは魔女たちが酒を酌み交わしていたらしいけど、それ以降は教徒が信仰する魔女のもとへ集う日に変わったんだ。あと、私が生まれた日でもあるらしい」
「だから、お祭りがあるんですね!」
納得顔の奏人。
「そう。で、彼女のこのパスワードは、私の誕生日だった」
少女はスマートフォンを軽く揺らし、少し気恥ずかしそうに笑った。
「魔女様は流石ですね!」
本気で言う奏人に、少女はむず痒い気持ちを覚え「でしょ」と小さく返した。
「彼女が使っていたコレが相当な旧型で助かったよ」
面白いと思っていただければ、ブクマなど何かしらアクションいただけるとモチベになります。キャラなどについての質問は常に受け付け中なので、ネタバレにならない範囲で「前書き・後書き」の方で書かせていただきます。