第二十四話:想定外のこと
場所を移動して厨房。たくさんの材料と道具が用意される中、面々は興味津々に辺りを見ていた。
「次はお昼ご飯の準備です。おそらくこの中だと料理経験は僕しかないと思うので、みなさんは補助をお願いしますね」
料理経験者の和哉の言葉で、簡単に作れるというカレーになった。まずは何を入れるかについて、カレーの方向性を決める。
「味付けは私が指示しますから、玉ねぎでもニンジンでもお好きな具材を選んでください。一人一つ、被らないようにお願いしますね」
和哉のその言葉に全員が並べられた野菜や肉に目を向ける。
「うーん、トマト缶かな?」
「おぉ!隼人さんいいですね!」
トマト缶をチョイスした隼人に、和哉は興奮気味に頷いた。カレーが苦手な子供へは、トマト缶を入れ、ケチャップやとんかつソースを少し足してあげれば食べやすくなる。その種のアレンジが大好きな和哉の中で隼人の好感度は爆上がりした。
「豚肉はどうですかー?」
「トマトカレーに豚肉は相性抜群です!!さすがです奏人様!!」
さらに豚肉で続いた奏人の好感度も爆上がり。もうこの後に続く人たちは誰もが好感度爆上がりではないかと思われた。
「牛肉でお願いします」
豚肉の後に牛肉で続いた女がいた。
「野菜にしません?」
「牛肉でお願いします」
硝子があまりにも食い気味に牛肉を押すため、和哉は食い下がってしまう。和哉の硝子に対する好感度は地面に突き刺さり、めり込んだ。
「これ、」
一気にテンションが落ちた和哉に、最後に持ってきたのはひより。見れば手には玉ねぎとニンジンが握られている。おそらく最初に玉ねぎでもニンジンでもと例を出したせいで、考える機会を削いでしまったのである。
「魔女様、いいんですよ?食べたい物を持ってきてくださいね」
10歳のときから厨房にいるのだ。殆ど雑用であったが、ひよりが玉ねぎやニンジンが特段に好きなんていう話は聞いたことがない。和哉がそう言えば、ひよりは玉ねぎとニンジンを置いて取りに行く。
「これ、甘くて好き」
持ってきたのはコーン缶。コーンはアリだね…とひよりの頭を撫で、ついでに玉ねぎニンジンとジャガイモも追加して調理に取り掛かった。
「どうでしょうか」
「それで何ができるの?」
やっぱりここでダークホース。最初、問題児は奏人とひよりだと思っていた和哉にとっては盲点。硝子に野菜を切るのを任せれば、見本の80%縮小サイズのブロックが出来上がっていた。もはや粒である。ちゃんと切れてるし、本人が自慢げだしで怒るに怒れない状況で和哉はため息をつく。
「お肉かと思ったら自分の指だった」
「救急車!!誰か、救急車!!!」
その横でお肉を切るのを任されていたひよりが、ザックリ自分の指を切ってしまう。それを見た隼人は大騒ぎである。
「ひより様見てくださ〜い!人参で星作ってみましたよー!」
「奏人は器用だね」と指が切れてもなお呑気な二人に、隼人は泡を吹いて倒れた。
「アホか!!指が切れたくらいで救急車呼ぶな!!これだから救急車をタクシー代わりに使うバカは!!」
見かねた菜摘が厨房の裏口からひょっこり顔を出し、救急箱を隼人に投げつけた。すると救急箱の重みに、隼人が「はっ!」と起き上がった。
「魔女様、痛いですね。大丈夫ですよ!手を洗って向こうの部屋で手当てしましょうね!」
隼人に手を引かれ、ひよりは退散。余裕アピールなのか、自慢げに手を振りながら出ていく姿は謎であった。
「お前ら料理もまともにできねえのか!!」
結局、菜摘が指揮を取り、残った面々でなんとか肉を切り終える。野菜と合わせて炒め、下ごしらえを終えた。
「なんというか。何時間煮込んだ?」
「一時間です…」
完成して昼食にカレーが並ぶ。だが木っ端微塵にされたジャガイモやニンジン達は溶けて消え去り、まるで数十時間煮込んだカレーのような姿になっていた。
「「「「「「いただきます」」」」」」
六人が席についてもまだ長いテーブル。手を合わせてそう言えば、各々食べ始めた。
「甘い…」
甘いカレーに、先程まで手当てを受けていたひよりは目をぱちくりさせた。しかし、嬉しそうにスプーンを口へ運ぶ。他の面々はというと…
「美味しいですね」
硝子も美味しそうに食べている。その姿はどこか自慢げだ。
「初めてカレー食べましたー!すごく美味しいんですね!」
「うん。少し甘いけど美味しいね」
奏人はニコニコと満面の笑みを振りまきながら言うのだから間違いはない。隼人もどこか懐かしそうに頷きながら食べるのだから満足そうだった。しかし…
「ゲロ甘…」
「おっ、ぷふっ」
顔面蒼白の菜摘と、口元に手を添え今にも吐きそうな和哉。あれ?俺も和哉も全ての工程を見てたよな?と菜摘が頭を悩ませた。
「おかしいです…砂糖なんて入れてませんし…」
「隠し味とかに蜂蜜とか入れなかったか?」
何が原因かブツブツと口に出して悩み始める和哉に、菜摘がそう指摘すれば思い出した。
「乙梨さん!!蜂蜜どのくらい入れました!?」
その問いに、硝子は少し考える素振りを見せた。
「大さじ1、甘いのがいいなら少し多めにって言われたので全部入れました」




