第十九話:これからのこと
結局、何をしに来たのか。突然やってきた直哉と菜摘は、なぜか場の空気にすんなり馴染んでいた。ひよりと奏人は、揃ってモックのポテトを頬張っている。
「ポテトちょーだい」
直哉がひよりの手元にあるポテトへと手を伸ばす。その瞬間、菜摘が無言で首根っこを掴み、軽々と引き戻した。
「こっちを食え」
低く冷たい声に、直哉は「ちぇ」と唇を尖らせて小さく拗ねる。それでも諦めず、今度は奏人のポテトに手を伸ばす。
「塩屋さん」
奏人の声は、普段よりわずかに鋭さを帯びていた。前々から察していたが、どうやら直哉は大食いらしく、食い意地もこの通り。
珍しく自分自身のために怒ったような声色に、ひよりはスマートフォンから顔を上げ、目を輝かせた。
「あげる」
ひよりは自分のポテトを奏人に差し出す。「ふふーん」とでも言いたげな、どこか誇らしげな笑みを浮かべる。
そんな子供らしい仕草に、直哉は近所のおじさんのような感覚でしみじみと頷いた。
「ありがとうございます!」
奏人が満面の笑みで礼を言う。その様子を見て、ひよりはさらに得意げな表情を浮かべる。
直哉は、「ひよりはまだ子供なのに、本当に子供の扱いが上手いな」と感心したように再び頷いた。
一方で、菜摘は少し驚いていた。
あの狂気的な奏人が、こんな優しい対応を…。菜摘は、過去の奏人の姿を思い出し、内心で密かに舌を巻いた。
「あ、そーだ。ひなち、ちょっといい?」
菜摘がふいに声をかけ、ひよりと奏人に視線を移す。その様子を、直哉は胡座をかいて見守る。膝に肘を乗せて頬杖をつき、口元に薄い笑みを浮かべた。
「教団、俺にくれない?」
直哉は何気ない調子で言う。その言葉に、奏人は「ふふっ♪」と低く笑い、どこか不穏な笑みを浮かべる。
菜摘は「やらかした…」とでも言いたげに額に手を添え、深いため息を吐いた。
モックのバーガーとポテトを挟んで、誰も予想をしない大規模な交渉が繰り広げられている――。
――教団フクロウとひより、そして奏人の運命はいかに。




