表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤城のアトリエ  作者: 伊織
第一章:始まりの魔女
20/109

第十九話:これからのこと

 結局、何をしに来たのか。突然やってきた直哉と菜摘は、なぜか場の空気にすんなり馴染んでいた。ひよりと奏人は、揃ってモックのポテトを頬張っている。


「ポテトちょーだい」


 直哉がひよりの手元にあるポテトへと手を伸ばす。その瞬間、菜摘が無言で首根っこを掴み、軽々と引き戻した。


「こっちを食え」


 低く冷たい声に、直哉は「ちぇ」と唇を尖らせて小さく拗ねる。それでも諦めず、今度は奏人のポテトに手を伸ばす。


「塩屋さん」


 奏人の声は、普段よりわずかに鋭さを帯びていた。前々から察していたが、どうやら直哉は大食いらしく、食い意地もこの通り。

 珍しく自分自身のために怒ったような声色に、ひよりはスマートフォンから顔を上げ、目を輝かせた。


「あげる」


 ひよりは自分のポテトを奏人に差し出す。「ふふーん」とでも言いたげな、どこか誇らしげな笑みを浮かべる。

 そんな子供らしい仕草に、直哉は近所のおじさんのような感覚でしみじみと頷いた。


「ありがとうございます!」


 奏人が満面の笑みで礼を言う。その様子を見て、ひよりはさらに得意げな表情を浮かべる。

 直哉は、「ひよりはまだ子供なのに、本当に子供の扱いが上手いな」と感心したように再び頷いた。


 一方で、菜摘は少し驚いていた。

あの狂気的な奏人が、こんな優しい対応を…。菜摘は、過去の奏人の姿を思い出し、内心で密かに舌を巻いた。


「あ、そーだ。ひなち、ちょっといい?」


 菜摘がふいに声をかけ、ひよりと奏人に視線を移す。その様子を、直哉は胡座をかいて見守る。膝に肘を乗せて頬杖をつき、口元に薄い笑みを浮かべた。


()()、俺にくれない?」


 直哉は何気ない調子で言う。その言葉に、奏人は「ふふっ♪」と低く笑い、どこか不穏な笑みを浮かべる。

 菜摘は「やらかした…」とでも言いたげに額に手を添え、深いため息を吐いた。


 モックのバーガーとポテトを挟んで、誰も予想をしない大規模な交渉が繰り広げられている――。


 ――教団フクロウとひより、そして奏人の運命はいかに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで拝読させていただきました。 近代日本を舞台としながらも紡がれる独特な世界観が素敵でした。 地の文も丁寧で読みやすかったです。 二人が出会ったことで少女に芽生えた感情や葛藤が丁寧に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ