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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第一章:始まりの魔女
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第十五話:友達作戦

面白いと思っていただければ、ブクマなど何かしらアクションいただけるとモチベになります。キャラなどについての質問は常に受け付け中なので、ネタバレにならない範囲で「前書き・後書き」の方で書かせていただきます。


「僕を殺して、僕の主人も殺すんでしたっけ?」


 奏人はシャツの裾を掴むと、ためらいなく脱ぎ去った。右肩から手先にかけて残る焼け跡を、どこか陶酔したような表情で撫で、男性に見せつける。


「魔女様は、こーんなかっこいい傷を残してしまうような人です」


 その目は笑っていながらも、底知れぬ狂気がちらついていた。


「貴方に勝てますかね?」

 奏人はケラケラと無邪気に笑い、挑発するように首を傾ける。

 膝から崩れ落ちた男は、震える手で自身の持つナイフを見た。バリバリに砕けた破片と、べっとりと付いた血が視界に入る。視線を血の跡へ辿れば、そこにあるのは奏人の右手。


「お前……魔女の卵なのか……?」


 その声はかすれて、呆然とした顔が間抜けにも見えた。


「いえ!僕は普通の人間ですよ!」


 奏人はニッコリと微笑む。その姿はあまりに無邪気で、先ほどまでの恐怖を嘲笑うかのようだ。ナイフを素手で粉々に砕くなど誰が想像できようか。


「う〜っ!疲れましたし、思い出したらお腹痛くなってきました!」


 奏人は軽やかに伸びをすると、ずぶ濡れになる前に蛇口から遠ざけておいたモックのテイクアウトの袋へ歩み寄る。


「ご飯食べませんか?」


 血だらけの手でモックの袋を持ち上げると、すでに戦意を失っている男へ差し出す。


 どこかで、奏人はこの男が根っからの悪人ではないと感じていた。声を掛ければ、まだ応じてくれる心が残っているような気がしてならなかった。


「お前、よく頭沸いてるって言われないか?」


「言われたことないですよ〜?」

 呑気に返す奏人。男はもうどうにでもなれと、力なくその手を取った。


「お友達作戦。俺も混ぜてもらおっかな!」


 突然ポンッと肩に乗る手に二人はギョッとする。驚いて振り返れば、そこには――


「塩屋さん!」


「直哉くんとかがいいなぁ」

 楽しげに笑う直哉は、堅苦しい雰囲気を一蹴するように奏人の背中をバシバシ叩いた。傷口が――と思ったが、すでに痛みはなかった。


「今死ぬ?」


 直哉は奏人の前に立ち、冷たい視線で男を睨む。メガネをクイッと押し上げ、低く鋭い声で言い放つ。

 男性は「癒しの魔女…」と怯えたように呟き、奏人の手を振り払うと後ずさった。


「聞いてるだろ。今死ぬか、付いてくるか選んで」


「塩屋さんが…癒しの魔女?」

 奏人は驚き、思わず自分の腹に手を当てる。そこには、刺された跡などどこにもなかった。まるで最初から何もなかったかのように。


「お前は俺を殺せない」


 直哉の言葉に、男は苦々しい表情を浮かべて黙り込む。拒否権など許されない、絶対的な圧。少女以上の威圧感に、奏人の背中にも一瞬寒気が走った。


 やがて男は、肯定も否定もせず、敵意を収めたように手をヒラヒラと振った。


「んじゃ、案内よろしく奏人く〜ん」


「えっ、塩屋さんもご飯に来るの?」

 ヤバい状況だとようやく気づいた奏人は、「やっぱりやめます」と言う勇気もなく、結局二人を連れ屋敷へ戻ることとなった。


和哉(かずや)く〜ん!あーそーぼーっ!!」


 裏門を抜け、教徒たちに気付かれぬよう中庭をこっそり進んでいると、直哉が突然大声で誰かを呼んだ。

 男性と奏人はギョッとし、急いで直哉の口を塞ぐ。


「お前、静かにしろよ敵陣だろ!!」


「うるさくすると怒られるんですよ!!ここ魔女様のお屋敷です!」


 先ほどまで殺気立っていた二人とは思えないほどの連携で、直哉を黙らせる。直哉は「ケチ〜」と頬を膨らませ、不満そうに目を逸らした。


「楽しそうなことしてるね」


 背後から軽やかな声。案の定、直哉の大声は丸聞こえだった。自室の窓からひょっこり顔を出したのは、少女――叡智の魔女だった。


「あ、魔女様…」


 男性は体を硬直させ、奏人は教徒に叱られやしないかとテンション低めに項垂れる。


()()()()やっほ!」


 空気を読まない直哉が、窓の少女に向かってニコニコと手を振る。異様な光景だった。


「普通に正面玄関から入っておいでよ」



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