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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第一章:始まりの魔女
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第十四話:仕返し

面白いと思っていただければ、ブクマなど何かしらアクションいただけるとモチベになります。キャラなどについての質問は常に受け付け中なので、ネタバレにならない範囲で「前書き・後書き」の方で書かせていただきます。



 目で追う暇などなかった。最初に目に入ったのは刃物で腹を刺されたこと。次に鈍い痛みに始まり、焼けるような傷口の熱さでやっと刺されたことを脳が理解した。


「叡智の魔女なら良いか。カルト宗教と化した魔女など創造神様も望んではいない」


 男の声は気だるげでありながら、どこか優しさを装っていた。しかし、その表情は冷酷さに染まっていく。


「痛っ!!あつい、熱いっ!!」


 奏人は腹を押さえ、膝を折りかけながらも声を振り絞った。傷口から走る焼けつくような激痛が全身を蝕む。


「創造神様の思し召しのために。天命を享受しろ」


 男の瞳が鋭く細まり、血に飢えた獣のような視線が奏人を捉える。理由など取ってつけたようなものだと、直感で理解できた。


「嘘をついてますね」


 奏人は顔を引きつらせながらも、挑発するような笑みを浮かべた。


 男は一瞬驚いたように目を見開き、すぐにニヒルな笑みを返す。

「嘘かどうかは俺が決める。嘘だって墓場まで持っていけば真実だ」


 その言葉が合図のように、男が地面を蹴り飛びかかってくる。

 激痛に耐え、立ち上がればよろけたのが幸いし、上手く攻撃を避けられた。


「痛いって……いってますよね」


 傷の痛みに顔を歪めながらも、奏人の瞳には奇妙な光が宿り始めていた。血走る視線が男を射抜くと、男もわずかに眉をひそめる。


「俺に勝てよ。勝てば創造神に……魔女に仇なす賊を討ったと高らかに宣言すればいい。人々は認めるはずだ。()()()()には、お前がふさわしいと」


 その声は試すようでいて、どこか焦りを含んでいた。

 何をいいたいのか。意味がわからないとでもいうように奏人は構える。腹を刺されたことなど忘れてしまったかのようだ。


「そんな目をするんだ!!お前も野心故に魔女に取り入ったんだろ?」


 男は後退しつつもナイフを構え直す。その目は鋭く、だが心の奥に小さな揺らぎが垣間見えた。


「知ってるか?魔女ってのは死ねば新しい魔女が生まれる。魔法が使える魔女の卵の中からな」


 その言葉が耳に届いた瞬間、奏人はかつてニュースで見た映像を思い出した。魔女狩りの現場、そして……この近辺で起きた連続事件。背筋に冷たいものが走る。


 男性から投げかけられる言葉の数々の意味を考えた。


「叡智の魔女の蔑称知ってるか?叡智とは程遠い。魔女とは名ばかりの、人間に飼いならされた従順な犬。なら……お前が叡智になればいい」


 声は嘲り混じりだったが、その奥には異様な執着が感じられた。

 この人が、魔女狩りの犯人だ。僕を欺き、魔女様の喉元へ刃を向けさせようとしている。直感がそう告げていた。


「だが、俺に出会わなければそんな未来も可能だったかもな。お前を殺して、お前のご主人様も殺してやる。何度首がすげ替わろうと、俺は……負けない」


 そこに込められた殺意は本物。奏人は一瞬、体の奥底が凍る感覚を覚えた。


 時折見せる。攻撃の後の僅かな揺らぎ。

 一見研ぎ澄まされているようで、違う。この雑味の正体は……


「いきますよ〜!」


 その瞬間、奏人は満面の笑みを浮かべた。嬉しささえ混じった笑顔に、男がわずかに動揺する。

 距離を取る男性の方へ一気に詰め寄った。


「殺せないんですよね?分かります ♪」


 笑顔のまま放つその声が、妙に耳に残る。男は眉間に皺を寄せ、無意識に一歩後ずさった。

 魔女狩りの犯人かと思った。しかし、それにしては妙。音を置き去りにしてしまうそのナイフ捌きがありながら、なぜ一撃で仕留めなかったのか?

 一撃目はもろにくらい、完全に油断していたにもかかわらず刺されたのは脇腹。

 まるで、最初から殺す気がなかったようだ。


「僕は人を殺したことがありますよ」


 奏人は、さらりと恐ろしい言葉を吐き出しながら男の目を真っ直ぐに見た。男の瞳が微かに揺れる。

 男性は、詰め寄る奏人にザザザッと素早い斬撃。避けることなくすべてに当たる。しかし、できた傷は少し深い程度で、出血多量で死ぬほどではない。

 そんな傷を見て奏人は男性の手首を掴んだ。


「殺し方、教えてあげます。いいですか?このナイフをこうするんですよ?」


 奏人は静かに微笑みながら、男のナイフを自らの首元へ導いた。その刃が皮膚に触れ、赤い線が描かれる。


「僕がカウントダウンをしてあげますから、ゼロになったら切るんですよ?」


「やめ、ろ」


 男の声は震えていた。手首が小刻みに揺れている。恐怖がじわじわと染み出していく。


「さーん」


 明るく無邪気な声が響く。奏人は首を振り、ナイフの刃にコツコツと当てて見せる。浅い切り傷から赤い滴が落ちる。


「にーい」


 男は必死に奏人の手から抜け出そうとするが、まるで鉄の檻のように指が食い込んでいる。


「いーち」


 焦りと恐怖にまみれ、汗が頬を伝う。男は叫んだ。

「やめろっっ!!!」


 しかし、奏人はそんなことはどうでもいい。


「ぜーろ ♪」


 カウントダウンがゼロを迎えた瞬間血が飛び散る。

 男性はあまりの衝撃に膝から崩れ落ち、顔に浴びた返り血を触っていた。

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