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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第四章:偽りの輝き
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第百六話:転入生と魔女

「何これ」


 翌朝。頬の腫れはすっかり引き、そこそこの機嫌で登校していたひよりは、学園の掲示板に大きく貼られたポスターを見つけた。


「あら、ご存じないの? 魔法学院グループの序列に関わる試合の予選よ」


 真横でベラベラと話す女子生徒に、ひよりは少しムッとした顔を向ける。


「毎年どこの校も生徒を出してるけど、最後はルーベルリアの生徒同士で戦う構図になるの。正直、私たちは前座に過ぎないわ。決勝戦の観客数なんて、倍どころじゃないもの」


「特別講義にご招待。これのことよ、転入生」


 昨日とは打って変わって上機嫌な花園の声が響く。

 あれだけ人の頬を打っておいて、なぜそんな笑顔で声をかけられるのか。

 ひよりは眉間にシワを寄せ、「これが噂のサイコパスってやつか」と心の中で呟いた。自己完結する。


「試合に勝ったらご褒美あるの?」


 ムッとしながらも素直に尋ねるひより。

 花園は興味なさそうに視線を逸らしながら答えた。


「自校より序列が高い学園の生徒に勝てば、籍の入れ替えができるわね。毎年出るのは、大抵それが目的の人間よ」


 その言葉にひよりも同じくつまらなそうな顔になった。


「転入生もそんなものに興味があるわけじゃないわよね? 珠玉の魔女の推薦だもの。最初からルーベルリアに入れたでしょう?」


 “転入生も”という言い方に、ひよりはすぐ気づいた。花園もまた自身と同じ理由でこの学院を選らんだのだろう。


「「私は、憧れ(師匠)を超えるためにここに来た」」


 口を開いた花園とひよりの言葉が、ピタリと重なる。


「……」


 互いに驚いたように目を見合わせ、次の瞬間、吹き出すように笑った。


「ふふっ。珠玉を超えるなんて可能なのかしら」


 挑発的な笑みを浮かべる花園に、ひよりはまっすぐな瞳で応じた。


「珠玉じゃない。開闢だよ」


 その一言に、花園は納得したように頷く。


「通りで髪が真っ白なのね」


 目を細め、どこか嬉しそうに呟く花園。


「でも、どちらにしたって。ルーベルリアからスタートしてもたかが知れてる。己の力を示すなら、一番下からじゃなくては」


 その言葉にひよりは親近感を覚えた。

 目標も考え方も似ている。奇妙な共感が芽生える。


「いいよ。特別講義の話に乗る」


 昨日の往復ビンタのことなど、すっかり忘れていた。


「あら、まずは私の荷物運びからよ、転入生。魔女と生徒は対等じゃないわ」


 (やっぱりこの人、性格悪い……)

 内心でそう悪態をつきながらも、ひよりは口に出さなかった。


「試合では私の引き立て役として頑張ってちょうだいね、転入生」


 ひよりはそこで、ひとつ技を覚えた。


「チッ」


 16歳にして人生初の舌打ち。

 だが、この気分屋の魔女をうまく扱えば、上機嫌のまま揉めずに済むだろうと様子見を決めた。

 花園の後ろを歩きながら、ひよりは小さくため息をついた。


「次はグラウンドよ。私の荷物、運んでくださる?」


 俗に言う“パシリ”だ。

 周りの生徒や教師は、珠玉の推薦者が魔女のパシリをしていることに心臓がバクバクし、口から心臓が出そうなほどの衝撃を受けていた。


「グラウンドってどこ」


 嫌そうな顔をしていたひよりだが、次第に目を輝かせていた。

 花園についていけば、クラスのみんなと普通に授業を受けられると気づいたからだ。


「そこの窓から飛び降りてすぐよ」


 その言葉を聞くや、ボールを投げられた犬のように勢いよく窓から飛ぶひより。

 この日、教室の生徒と教師全員が強烈な胃痛を訴え、病院に運ばれたという。

 原因は、全員ストレスだった。


「転入生……手ぶらで飛ぶんじゃないわよ……」


 花園は呆れたようにため息をつく。

 多分、この転入生は荷物持ちには使えない。そう確信した。



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